みんなの世田谷レポート

世田谷で行われたイベントやワークショップなどの体験レポート。くみん手帖編集部およびくみんライターが参加した感想や、当日聞いたお話、エピソードなどをご紹介。

2014.03.13

“空き地”を耕し、地域を拓くということ

大雪に見舞われた2月8日。見慣れない雪景色の三軒茶屋・生活工房では、「空き地農業―都市・農・人の新たなつながり」というセミナーが行われ、遊休地を利用した大阪市・北加賀屋のコミュニティ農園など、地域をつなぐ「農」のあり方が紹介されました。農地が減る一方の世田谷でも、空き地を農園に変えることで地域を拓く可能性はあるのか?雪にもめげず開催されたこのセミナーの様子をレポートします。(生活工房/杉本勝彦)

大阪市・北加賀屋にある「みんなのうえん」。企業の遊休地を活用し、参加者が土地を耕した

大阪市・北加賀屋にある「みんなのうえん」。企業の遊休地を活用し、参加者が土地を耕した

地域づくり≠ハコモノ

さて、このセミナーを企画したのが、このレポートを書いている私です。私が勤める生活工房では、“暮らしのデザイン”をテーマに展示やセミナー、ワークショップなどさまざまな事業を展開しています。“地域やまちづくり”をテーマにした連続講座の最終回として行われたこの「空き地農業」も、自分たちの住む地域をデザインするという視点で考えたものです。世田谷区内でも開発や都市計画という街のデザインが行われていますが、我が家の最寄り駅前も工事の真最中です。そうした開発を横眼にしながら(乗り降りの不便さに苛まれながら)、地域づくりに思いを寄せたのが、この連続講座の始まりでした。

そして、地域のつながりが希薄化する都市において、また高齢化が加速するこれからの社会において、ハコモノ的な発想とはまた違う地域づくりの仕組みを模索していたところ、知ったのが、大阪市南西に位置する北加賀屋という街で行われている「みんなのうえん」でした。

講師には「みんなのうえん」の西川亮さん(左)と雑誌『ecocolo』の編集長・石田エリさん

講師には「みんなのうえん」の西川亮さん(左)と雑誌『ecocolo』の編集長・石田エリさん

雑誌『ecocolo』のハーベスト特集号は、じわじわと売り上げを伸ばしたのだとか

雑誌『ecocolo』のハーベスト特集号は、じわじわと売り上げを伸ばしたのだとか

遊休地を活用した「みんなのうえん」

大阪市・北加賀屋の「みんなのうえん」。初期の頃は、Studio-Lの山崎亮さんも関わっていた

大阪市・北加賀屋の「みんなのうえん」。初期の頃は、Studio-Lの山崎亮さんも関わっていた

「みんなのうえん」参加者による「こんだて部」。畑を拠点にその活動は広がりをみせている

「みんなのうえん」参加者による「こんだて部」。畑を拠点にその活動は広がりをみせている

大雪の中、このセミナーの講師として大阪から駆けつけて下さったのが、「みんなのうえん」(正式名称は北加賀屋クリエイティブファーム)を運営するNPO法人Co.to.hanaの西川亮さんです。そしてもう一方、雑誌『ecocolo』の編集長である石田エリさんを迎え、「みんなのうえん」の取り組みをひもときながら、石田さんにはサンフランシスコで取材されたユニークな都市農業の実例などもお話し頂きました。

「みんなのうえん」は、北加賀屋の地域住民らが企業の遊休地を再生し管理している農園です。2012年に始まったこのプロジェクトは、20名ほどのメンバーから始まり、3班に分かれて畑づくりから水やり当番、定期会合、収穫パーティ(!)など、班ごとに活動しています。班を超えての活動も盛んで、農地の視察に行ったり、レシピの開発をしたりと、農や食を通じて参加者同士のコミュニケーションが自然と生まれています。また、主催する西川さんらが主体となり、ワークショップ、お祭りイベント、出張のケータリングも行われ、農園での交流や活動が積極的に地域へと還元されています。

地域をつなぐ農園、海外の事例も

このセミナーで西川さんが強調されていたこと。それはこの農園の目的が収穫のみではないということ。もちろん豊作にこしたことはないでしょうが、参加者同士のつながる場、また地域をつなぐ場として、「みんなのうえん」は機能しています。単に野菜を育て、収穫するだけでなく、皆で一緒に調理して食べる。そしてさまざまな催しを通じて時間を共有する。また、農園の利用者のみでなく、外部のクリエイターやアーティストを招きいれるなど、その活動は北加賀屋を拠点に有機的な広がりをみせています。

もちろんそうした活動の裏で、西川さんたちが地域の中で直面する難しさについても、トークの中で石田さんが引き出してくれました。その石田さんからは、グーグルマップで空き地を見つけて都市農業を始めた女性の話や、民家の庭先になる果樹をオーナー同士がシェアする取り組みなど、海外の事例が紹介されました。都会でもちょっとしたアイデアと行動力で実践できる、農(食)を通じた地域交流の実例には、受講者の方々も興味を寄せているようでしたし、生活工房でも何か事業化できれば…とあれこれ考えが浮かびました。

参加者からの質問もたくさん挙げられました。農業に関心のある方が多数

参加者からの質問もたくさん挙げられました。農業に関心のある方が多数

十数年ぶりの大雪にも関わらず、多くの来場者が。空き地農業が各地に飛び火するかも

十数年ぶりの大雪にも関わらず、多くの来場者が。空き地農業が各地に飛び火するかも

これからのまちづくり~農を通して地域を拓く

地元の不動産会社の支援など「みんなのうえん」は環境に恵まれた特例と言えるのも事実です。しかし、空き地の使い方という点では、とても示唆に富むものでした。高齢化にともない、世田谷区でも空き家への対策を思案しているようですが、スクラップ&ビルドな地域開発ではなく、老若男女が目的を持って集い、同じ時間や体験を共有できる場を創造すること。そのひとつのいい例が農園のようにも思いました。質疑応答の時間には、実際に地域とのつながりを求めている農家の方や、すでに大学の一角を借りて農に携わっている方、また、御茶ノ水で「みんなのうえん」と同様の取り組みを始めようとしている方など、農をきっかけにしてさまざまなつながりが生まれようとしているようです。

今回セミナーに参加された方々が、畑を耕し、地域を拓く可能性を少しでも見出してもらえたら嬉しいです。また、6年後の東京五輪に向けて再開発の機運が高まる中で、自分たちの暮らすまちや地域の姿にも思いを馳せてもらえればと願います。

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「みんなのうえん」の取り組みに関してはぜひ彼らのホームページへアクセスしてみてください。
>> http://minnanouen.jp/

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紹介者プロフィール

生活工房

三軒茶屋・キャロットタワーにある“暮らしとデザイン”をテーマにした文化施設。世田谷からアフリカ、伝統から異文化まで、暮らしにまつわるデザイン・文化・環境といった視点から多様なプログラムを展開。

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