くらしの世田谷

世田谷での暮らしを、よりよいものにするための情報。区民の衣食住に関わる取り組みやサービス、町の景観、子育て、町づくり、多世代交流の話など。

2014.01.28

ギャラリー治庵で、三代先まで毎日使える器に出会う

漆の器と聞くと、どんなイメージが浮かびますか?高価で扱いが難しそう、特別な日に使う器…と思う人も多いかもしれません。でも、毎日くり返し使える、三代先まで長く使える、気持ちが豊かになる器…と聞くとどうでしょう。世田谷で代々漆工芸を作り続けている村瀬治兵衛さんの「ギャラリー治庵」を訪れると、漆工芸の魅力に触れることができます。この器でスープを飲むとどんな味わいだろう。そんな想像が膨らみます。
[1月の特集]暮らしをもっと素敵に!世田谷のものづくり

ギャラリー治庵にて。素材を吟味し、0.数ミリにもこだわって作られた、品格のある漆工芸の数々

ギャラリー治庵にて。素材を吟味し、0.数ミリにもこだわって作られた、品格のある漆工芸の数々

木地師として、漆職人として、受け継ぐ血

上馬の閑静な住宅地に工房を構え、漆作品を作る村瀬治兵衛さん。江戸時代より続く木地師(きじし)の家系に生まれ、村瀬さんの祖父にあたる初代治兵衛さんが、名古屋より越してきたのが1952年(昭和27年)。三代目の村瀬さんに至るまで、この上馬を拠点に、美しい木工品を生み出しています。

初代より自宅で茶会を催し、数々の料亭や数寄者たちが集い合ったと伺います。その中で直接相談しながら茶道具を制作できることが、世田谷にいて良かったと思うことのひとつであるそうです。その付き合いは、今でも代々受け継がれているといいます。

村瀬さんのつくられた漆工芸品に出会える「ギャラリー治庵」を訪れると、さまざまな大きさの器が、行儀よく並んでいます。一つひとつ見ていくと、同じような形でも微妙に形や器の表情が違います。
「漆の器はこうあるべきだという既成概念を捨てて、一つひとつ真剣によいラインを探りながら削っていくと、それぞれ味が出てきて面白いです」と、村瀬さん。

右から2番目のお皿は初代からの特徴とされる「荒作り」。刃や轆轤目を残す削り方で、手に取ると温かみがある

右から2番目のお皿は初代からの特徴とされる「荒作り」。刃や轆轤目を残す削り方で、手に取ると温かみがある

伝統や基礎を習得した今、個性が発揮できる新たな領域でのオンリーワンの木工作りが楽しいと語る村瀬さん

伝統や基礎を習得した今、個性が発揮できる新たな領域でのオンリーワンの木工作りが楽しいと語る村瀬さん

指紋が一人ひとり異なるように、同じ種類の木でも一つとして同じ木目はありません。適材を選んで、素材に合う形にする職人技が加わり、オンリーワンの器が誕生します。

漆の器は、はたして高い?

漆工芸は、企画から完成までおおよそ3〜4年の月日がかかります。それには、作品に最適な木材選び、木材の乾燥、作品に応じた木を削るための刃物づくり、そして実際に轆轤(ろくろ)で形にして、漆塗りで仕上げるという行程が含まれます。村瀬さんは、轆轤で削る作業をコントロールできるようになるまでに、10年かかったといいます。それほど、技術を要する作業なのです。

漆の器は高価で、扱いも難しそう。そんなイメージが一般的に浸透していますが、木と漆の種類によっては気軽に使えると語ります。

「私も漆のお椀を毎日使っています。コーンフレークもお椀で食べるくらい。普通に洗うことができるし、何より長く使えます。娘さんが嫁がれるときに、お母様のお椀を受け継いだというお客様もいらっしゃいます。三代は使うことができますよ」

村瀬さんの工房に伺って、“漆の器=高い”という方程式が崩れました。確かに、3万円のお椀を買う瞬間は高い買い物かもしれませんが、味わい深い風合いを何十年も世代を越えて楽しむことができると思うと、日常生活に取り入れてみたいという気持ちが湧いてきます。

轆轤で木を削るときの音で、頃合いを判断。角度や大きさによって刃物を変えて削る。その刃物もすべて手作り

轆轤で木を削るときの音で、頃合いを判断。角度や大きさによって刃物を変えて削る。その刃物もすべて手作り

村瀬さんも毎日愛用している「沢栗ハツリ椀」大31,500円。著名人もご贔屓だとか。料理が美味しくなるお椀

村瀬さんも毎日愛用している「沢栗ハツリ椀」大31,500円。著名人もご贔屓だとか。料理が美味しくなるお椀

時代にフィットする、新しい漆工芸を

村瀬さんは、年に数回、お茶会を催されています。そこでは、形式にとらわれないでお茶を楽しむことが目的です。

「“お茶=作法”と思われている方が多いと思いますが、お茶は本来もてなしの一つです。現代の生活に合わせて、畳ではなくテーブルとイスを使っています。この水指は、ガラスのテーブルに合うように作ったものなんですよ」

伝統や既成概念にとらわれることなく、今の時代や風潮にフィットした新しい市場を開拓したいと、村瀬さんは展望しています。

美大の恩師、佐藤忠良氏の彫刻を見て美しいラインのモノに惚れ込んだという村瀬さん。今は、海外のアートや自然が織り成す形から美しいラインを木工に取り入れ、作品を作っているそう。技術があってこそ発揮できる、村瀬さんならではの感性がカタチとなるとき、唯一無二の作品となります。

丸いフォルムがキュートな水指。モダンな雰囲気は、洋風の部屋に合う

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栗材はザブザブ洗えるが、金銀箔は摩耗に弱いため丁寧に。こちらはケヤキ製

栗材はザブザブ洗えるが、金銀箔は摩耗に弱いため丁寧に。こちらはケヤキ製

漆の器を取り入れたコーディネート提案

「ギャラリー治庵」だけでなく、村瀬さんの作品に出会える機会はあります。その一つは、年に一度行う新作展示会。その他に百貨店や美術館のミュージアムショップで展示を行うこともあります。

また、村瀬さんの奥さんが代表を務める「嘉門工藝」を新たに設立。ここでは、村瀬さんの漆工芸をはじめ、全国の作家さんの協力を経て、コーディネート提案をしています。たとえば、茶籠・茶箱セットは、各メディアからも引っ張りだこで大人気とのこと。何より、実践している人たちがつくる、使いやすい形でのコーディネートが魅力なのでしょう。既成概念を越えた新たな取り組みにも、前向きに挑戦されています。

漆は、本来、私たちの暮らしに寄り添ってくれる自然からの贈り物。そこに職人の手が加わり、美しい工芸品として生まれ変わっています。そこまでの道筋を思い手に取ると、気持ちが豊かになってきます。毎日に彩りを与えてくれる器です。

(撮影:小林友美)

美しい漆のお盆。奥にある長方形の皿は、寿司屋で使われている。このタイプはたわしや洗剤もOK

美しい漆のお盆。奥にある長方形の皿は、寿司屋で使われている。このタイプはたわしや洗剤もOK

お椀の内側は、熱さや箸の刺激に耐えられるよう慎重に仕上げていく。日本産の漆は硬い性質のため最適

お椀の内側は、熱さや箸の刺激に耐えられるよう慎重に仕上げていく。日本産の漆は硬い性質のため最適

※2014年の展示会は、9月24日(水)〜30(火)に日本橋三越で開催予定です
※「嘉門工藝」の詳細はこちら >> http://kamon.info
※ギャラリーは予約制です。お電話にてご予約ください

ギャラリー治庵
世田谷区上馬5-27-3
TEL:03-3421-6887
ホームページ:http://jihei.com

施設概要

  • 東京都世田谷区上馬5-27-3
    住所: 世田谷区上馬5-27-3
    電話番号: 03-3421-6887

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紹介者プロフィール

沢田美希

編集・ライター(ASOBOT inc.)

高校卒業後、上京。デザイン系専門学校インテリア・雑貨スタイリスト科卒。その後、カルチャー誌の編集、音楽会社映像部門勤務を経て、ASOBOTへ入社。『metropolitana』『Starbucks Press』『Dean&Deluca』『Grass Roots』をはじめとするメディアを通して、ライススタイルや旅、カルチャーなどに関するコラムやフィクションを執筆。

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