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ぐるり世田谷

世田谷にはたくさんの「訪れたい場所」がある。古くから愛されてきたお店や、知る人ぞ知る穴場など、地元の情報をご紹介。思い出に残る昔の世田谷から今の世田谷まで。

2013.08.17

ご近所にこんな魚屋があると嬉しい。食卓の心強い味方「勇魚」

[連載『その食べ物の生まれるところ』第2回]新潟の岩牡蠣、銚子のマルガニ、島根のハマダアジなど新鮮な魚介や、見たこともない珍しい魚が賑やかに並ぶ魚屋「勇魚」。元料理人のふたりが始めたお店で、その日の魚はどこから入ったのか、旬や食感、調理法まで教えてくれるのが魅力です。スーパーのパックされた魚と違って、ここへ来るといきいきと跳ねていた魚の姿が思い浮かびます。連載第2回目は、千歳烏山の「勇魚」です。

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新しい魚に出会える場

千歳烏山の駅前通り商店街から少し離れた、住宅街の入り口に「勇魚」はあります。店内をざっと見渡しただけでも、魚の種類は20〜30種類。東京のほかの店では滅多に手に入らない珍味も豊富で、取材で訪れたこの日は、カツオのはらんぼや、マンボウの腸、“オジサン”や“スミヤキ”なんて変わった魚も置いてありました。

「魚の種類って本当にたくさんあるので、なるべく多くの人に、知らない魚も食べてみてほしいんです。この店へ来ると、いつもうまくて面白いものが置いてあるって思ってもらえたら嬉しい。意識して珍しいものを置くようにしています」

と、店長の野近勇気さん。

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昔ながらの魚屋の良さを

 10年以上板前をしていたという野近さんは、同僚だった佐藤拓人さんと二人でこのお店を始めました。魚に関しては同世代に負けない知識をもつ野近さんと、どんなお客さんとも気さくに話せる佐藤さんは、傍で見ていても名コンビ。今年の2月に開店したばかりですが、わずか半年でお客さんが途切れることなく訪れています。
 ここで買う魚はいつも新鮮で、初めて見る珍しい魚もあり、買い物するのが楽しみになります。そして何より嬉しいのは、二人が熱を込めて魚のことを色々教えてくれること。

「どの店もだいたい置いてある魚って同じですよね。アジにサバにイワシ、切り身だったらサーモンとブリ。知らない魚があっても、どうやって調理したらいいかわからないから皆買わないし、スーパーでは珍しい魚にはあまり手をつけない。うちではどこで穫れた魚かをきちんと説明して、こう食べるとうまいよってアドバイスするようにしています」

どの海の魚がいつ頃出まわるか、どのくらい脂がのっていて美味しいか。同じ産地でも気候などの条件によって海の状況は変わります。だからこそ漁場や市場から旬を運んでくる魚屋の役割は大きいもの。お客さんとの会話や、その日食べる分だけをさばいてくれるなど昔の魚屋には当たり前にあった文化が薄れている今、「勇魚」のような魚屋が、あらためてその価値を教えてくれます。

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料理人だからこその魚屋

将来は魚を扱う料理屋を始めることが目標で、その土台として魚屋を始めたと言う野近さん。魚の旬を肌で感じるため、毎日築地まで仕入れに出向きます。

「値段ではスーパーに勝てないけれど、ここへ来ると魚に間違いがないって言ってもらえるような店にしたい。朝しめてまだ身がぶるぶるしている刺身は、自信をもってお勧めできるし、本当の魚の美味しさを知ってもらいたい思いがあります」

店の一番の売りは、野近さんの出身地でもある高知県のカツオです。時期によって他の産地のものも扱いますが、毎朝店で、実際にわらで焼いているという徹底ぶり。そのほかにも、料理人の営む魚屋らしく、刺身やフライ、南蛮漬けなど、調理したお惣菜もたくさん置いてあり、仕入れた魚を捨てることはほとんどないのだそう。

その上、魚をおろすだけでなく、焼く、煮る、揚げるまでをやってもらえる(!)サポートもあるので(+100円)、忙しいお母さん方には心強い味方です。

「年配の方も多いけど、意外と若い子連れのお母さんが多いですね。スーパーの魚にも産地は書いてあるけれど、うちは産直のものもあるし、出どころがはっきりしているので、安心して買っていただけているんじゃないですかね」と佐藤さん。

お店でのお客さんとの会話に耳をすますと…。

「このサワラ、煮付けるのにお出汁要ります?」
「今のサワラは要らないですね。醤油とみりんだけで十分。もうちょっとして、脂が減ってくると少し入れるといいかもしれない」

「はらんぼって何ですか?」
「鰹の一部で、東京では滅多に手に入らないけど高知だとよく食べるんですよ、塩して酒のつまみに」

「これって、どこのカツオ?」
「普段は高知のカツオを産直で扱ってるんですけど、今の時期は勝浦のもち鰹の方が旨いんです。同じ産地でも季節によってまったく違うから。もう少しすると、今度は気仙沼の戻りガツオが出ますよ」

海で生きていたものをいただいている実感を、より鮮明にしてくれる、産地が垣間見えるお店です。

(撮影:庄司直人)

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連載『その食べ物の生まれるところ』
今都会に暮らす私たちは、食べ物の生まれる所からどんどん遠ざかっていると言えます。食卓に並ぶ野菜や肉、魚など食材はすべて、もとは自然のなかで育った植物や動物たち。生産地は地方でも、きちんと選んで美味しく食べてもらうことを真剣に考えているお店が世田谷にはたくさんあります。その食材がどんな土地で栽培され、どう食べると美味しいのか。教えてくれて「食べ物の生まれるところ」を想像させてくれるのが、実はいいお店。そんな食の伝道者をご紹介していきます。

施設概要

  • 世田谷区粕谷4-20-18
    住所: 世田谷区粕谷4-20-18
    電話番号: 03-6279-6607

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紹介者プロフィール

甲斐かおり

長崎県生まれ、東京在住。編集・企画・執筆。 地域コミュニティ、まちづくり、モノづくりをテーマに執筆。各地の地域活動、地産品の取材を重ねる。『世田谷くみん手帖』編集部員。ここでは「地方と都心をつなぐこと」「世田谷の人と人、人とお店のつながり」づくりをテーマに書いていきます。

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