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くらしの世田谷

世田谷での暮らしを、よりよいものにするための情報。区民の衣食住に関わる取り組みやサービス、町の景観、子育て、町づくり、多世代交流の話など。

2013.11.17

まちのお茶の間「岡さんのいえ」は、理由がなくてもいていい場所

世田谷区内に点在する、地域の人に開かれた「地域共生のいえ」。さまざまな目的や想いを持って運営されている施設は、現在13ヵ所にもなります。その中で今回紹介するのは「岡さんのいえ TOMO」。設立初期から携わってきた運営メンバー「見守り隊員」の方々にお話をうかがいました。
[11月の特集] 人と街がつながる、世田谷のコミュニティ

岡さんのいえ TOMO

岡さんのいえ TOMO

元祖「住み開き」の人、明治生まれの故岡ちとせさん

上北沢駅から歩いて5分ほどの閑静な住宅街に現れる「岡さんのいえ TOMO」。家自体はこじんまりとした昔ながらの日本家屋ですが、玄関の前はにぎやかです。「地域共生のいえ」のマーク、今月の予定、岡さんのいえで行われている教室の案内、そして駄菓子屋ののぼり…。気軽にのぞいてごらん、と呼びかけられているような気持ちで玄関に足を踏み入れられます。「最初はね、何をやっているか分からない、怪しい家だなんて言われたもんですよ」と見守り隊員の1人、中島俊一さんが笑います。

岡さんのいえのオーナーは小池良実さん。あれ?岡さんじゃないの?岡さんって誰?と不思議に思うところですが、“岡さん”とは小池さんの大叔母にあたる
岡ちとせさんのことなのです。岡さんが元々の住人で、2006年に99歳で亡くなるまで、多くの時間をこの家で暮らしたといいます。そして、外務省勤務の傍ら1950年代から、同居していた諫山イ子さんと一緒に、近所の子どもたちにピアノと英語を教え、いつも開かれたにぎやかな家だったそうです。

開いているデーカフェの日には、赤ちゃんや子ども連れのお母さんが気軽に訪れて、岡さんの家も賑やか

開いているデーカフェの日には、赤ちゃんや子ども連れのお母さんが気軽に訪れて、岡さんの家も賑やか

見守り隊員の小塚さん(右)と中島さん(左)

見守り隊員の小塚さん(右)と中島さん(左)

今でこそコミュニティスペースは珍しくありませんが、60年前にはめずらしい存在だったのではないでしょうか。おもてなしの心と共にかねてから住み開かれてきた家は、「地域の人や子どものために役立ててほしい」という岡さんの想いと共に遺されることに。そして意思を引き継いだ小池さんが岡さんの家を改修し、(財)世田谷トラストまちづくり、サポーターの力を借りながら、2007年からまちのお茶の間として役割をスタートさせました。

強力な助っ人、世田谷トラストまちづくり大学卒業生の「見守り隊員」

地域の人と子どもたちのために役立てるといっても、いざ、何をすればいいのか、どう継続していけばいいのかと知恵を絞るのは大変です。そこに現れたのが、世田谷トラストまちづくりが運営する「まちづくり大学」の地域共生のいえコーディネーター養成講座第一期の修了生たちでした。

このメンバーに、広報のイラストを一手に引き受ける小塚さん、伺った日に“駄菓子屋のおじさん”をやっていた地引功一さん、そして中島さんも含まれます。養成講座の中で、オープンしたての岡さんの家に関わる機会があり、その後も、「見守り隊員」として運営のコアな部分を担っています。

地域共生のいえのコンテンツとして、まず考られたのが、「開いているデー」。とにかく扉を開かなくてはと毎週水曜日をその日に決めたものの、最初は人の入りもイマイチ。そのうち「開いているデーカフェ」と名称を変え、お茶やお菓子を楽しめるようにしたら、ぐっと人が来やすくなったようでした。

取材した日は、だがし屋さんが開催

取材した日は、だがし屋さんが開催

学校おわりの子ども達も集まります

学校おわりの子ども達も集まります

ここに集うのは赤ちゃんや小さな子どもを連れたお母さんが圧倒的多数です。小学生や中学生のお茶の間にもなりたい、と考えて始めたことのひとつが駄菓子屋さんで、小学校帰りの子どもたちが、家を覗いてくれるようになったといいます。

集う人がしたいことをする場所

さまざまな年代が集まる岡さんの家ですが、「一番接点が少ないのが、中高生かもしれませんね」と小塚さん。しかし、一昨年の一時期、中学生が頻繁に出入りしていたといいます。「放課後まちの公園に、たむろしている中学生がいたんです。特になにをするでもなくいるんですが、体だけはもう大きいもんで、通報されちゃったりしてね。あんまりだから、岡さんのいえに招き入れて、カレーを一緒に作ったり、手仕事が好きだという子がいたから、みんなで刺繍をするちくちくカフェをやったりしました」(中島さん)

彼らは高校生になり、出入りはなくなりましたが、この誰でも迎え入れて、去るときは追わない、ゆるやかな結びつきが岡さんのいえのいいところ。まさに茶の間、なにをするでもなく集まれる場というのは、だれにとっても必要なものです。

もちろん、随時イベントも企画しています。「再現カフェ」では、岡さんが遺したレシピノートにあるハイカラなお菓子を現役のパティシエが腕を振るって再現しています。絵が得意な小塚さんは、図工教室を家だけでなく近隣の小学校でも。他にも夏休みには、大学生や大学院生がボランティアにやってきたり、世田谷美術館のワークショップがあったり…枚挙に暇がありません。関わる人が多様になっていけばいくほど、岡さんのいえの懐の深さも増していくようです。

さらに、近年は大学の研究対象となったり、海外から視察団が訪れたりと、岡さんのいえは住み開きの先進的な事例となっています。

赤ちゃんのためのコンサート

庭遊びのしゃぼん玉は、子ども達に大人気

庭遊びのしゃぼん玉は、子ども達に大人気

庭では土いじりもできます

庭では土いじりもできます

みんなの居場所が続いていくように

取材に行った日は「開いてるデーカフェ」の日で、お客さんはほとんどが子ども連れ。2人の子どもを連れて来たというお母さんに話をうかがうと、「お姉ちゃんが他の子とここに来て遊ぶので、普段とれない下の子との1対1の時間があるのが嬉しいですね。他のお母さんたちと、約束をしなくても集まれるのがいいですね」とおっしゃっていました。

「リタイア後、岡さんのいえに出会ってなかったら、何をしてただろうと怖くなります。結局、ここに来て、自分が遊ばせてもらっているんです」(小塚さん)
「ここに来る人、地元の人に楽しんでもらうために何をしていけばいいのか、抜けているところを振り返る作業を、今やっているんです。始めてからもう6年ですからね。存続していくためのことをやっていかないと」(中島さん)
2人を含め、岡さんのいえに関わる人々は、それぞれの役割と岡さんのいえの将来を想い描いています。

岡さんのいえは、いつも笑顔が絶えません

岡さんのいえは、いつも笑顔が絶えません

いつまでも、だれにでも開かれている、岡さんのいえ

いつまでも、だれにでも開かれている、岡さんのいえ

“ずっと、当たり前にある家”。それが私たちが実家に求めるものではないでしょうか。例え家族であっても、いい関係を保ち、続けていくにはそれなりの努力がいるもの。「岡さんのいえ」のお茶の間に集う人々の願いもきっと、“いえ”が続いていくこと。かたちは柔軟に変わっても、誰でも「おかえり」と迎えてくれる空間は、岡さんの想いを継いでずっと上北沢にたたずんでいそうです。

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岡さんのいえ TOMO
[住 所]世田谷区上北沢3-5-7
[ホームページ]http://www.okasannoie.com/

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施設概要

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紹介者プロフィール

小野 民(おの・たみ)

東京生まれ、宮城育ち。大学卒業後、(社)農山漁村文化協会へ入会。バイクで全国行脚をする営業生活を経て、編集局に配属になり、食について扱う雑誌編集に携わる。退会後、フリーランスの編集者となり、広く《食べごと》を豊かにしていくべく活動中。

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