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くらしの世田谷

世田谷での暮らしを、よりよいものにするための情報。区民の衣食住に関わる取り組みやサービス、町の景観、子育て、町づくり、多世代交流の話など。

2014.04.10

無農薬無肥料で育てる、自然に寄り添う「農」を世田谷から

世田谷区内の農地は年々減っていますが、かろうじて残っている貴重な農地の一つに「せたがや自然農実践倶楽部」が運営する畑があります。ここは肥料や農薬を使わず、土を耕さず、水をやらず、種を撒いて、草を少々刈るだけという「自然農」を実践している会員制の畑。そんな作業で本当に作物ができるの?尽きない疑問を胸に訪れると、そこには草木に覆われた土地が広がり、「農」の未来に向けて熱い思いを抱く人々が集まっていました。

1000㎡の畑で春〜夏、夏〜秋、秋〜冬の3期作で野菜を育てています。のんびり、ゆったりした時間の流れが

1000㎡の畑で春〜夏、夏〜秋、秋〜冬の3期作で野菜を育てています。のんびり、ゆったりした時間の流れが

畑に雑草を植え、土に命を吹き込む

ある3月の日曜日の朝、仙川のそば、鎌田の住宅地の一角にある畑に、一人、また一人と集まってきます。畑といっても雑草や枯れ草で覆われている土地で、不思議な光景です。

ここを運営しているのが、2009年にスタートした「せたがや自然農実践倶楽部」。「自然農」を楽しむ人々による会員制の畑です。「自然農」とは、耕さない、水をやらない、草を抜かないという一般の農業とは正反対の農法で、夏の畑は成長した草と農作物が生い茂り、ジャングルのようになるのだとか。

「遊んでいるように思われがちですが、実はルールに沿ってやっているんですよ」と、代表の井山ゴンジさん。自然農の農作業は、種を撒く前の畑に雑草を植えるところから始まります。草の根のまわりに微生物が増え、それが空気中の窒素からアンモニアや硝酸塩などの窒素化合物を作り、土中に固定。これを栄養分にして、作物が育つしくみです。ここの土1gの中には1億匹もの微生物がいるのだとか。大切に育てられた土にふれると、ほんのり温かさを感じました。

直射日光や冷たい空気にさらされないように草で覆って微生物を守る。草のない裸の畑では、微生物は増えにくい

直射日光や冷たい空気にさらされないように草で覆って微生物を守る。草のない裸の畑では、微生物は増えにくい

明け方、葉に滴る朝露は土をほどよく濡らす。伸びた草が影になって土を日差しから守り乾燥を防ぐ

明け方、葉に滴る朝露は土をほどよく濡らす。伸びた草が影になって土を日差しから守り乾燥を防ぐ

野菜を“売り物”から“食べ物”に

「自然農で大切なのが草、それから種。市販の種は肥料の使用が前提だから、無肥料で育てるとほとんどがだめになりますが、土の栄養だけで育つ強いヤツが一握り生き残るんですよ。それを繰り返し育てて種を採ると、3年目には野生を取り戻した強い種になるんです」(井山さん)

畑には共用畝(うね)と個人用の畝があり、会員になると幅1m×長さ5mほどの個人用の畝と“野生化”した種を自由に使えます。毎週日曜日は共同作業日で、共用畝で代表的な作物をみんなで育て、やり方を覚えたら、それを個人の畝で実践します。

「去年はミニトマトを2本植えて、9月から食べきれないほど穫れました。形は悪いですけれどね。野菜は“売り物”である限り、形が揃う種子や農薬を使わなければなりませんが、自分で育てた野菜は“売り物”ではなくて“食べ物”だから形が悪くてもよいので、農薬は必要ないんです。食べる野菜を自分で育てる社会にしたいんですよ。農業は農家だけではなくみんなでやらなくちゃ」(井山さん)

これまでに市販の種70種類で野菜を育てて、10種類が“野生化“して残った

これまでに市販の種70種類で野菜を育てて、10種類が“野生化“して残った

個人の畝では平均で5種類ほどの作物が。最初の1〜2年間、苦戦した後に豊富な実りが実現する

個人の畝では平均で5種類ほどの作物が。最初の1〜2年間、苦戦した後に豊富な実りが実現する

自然農は「依存しない」農法

世田谷区鎌田の先祖代々の畑を継がれる井山さんですが、以前は製鉄会社のサラリーマンでした。農業をしていたお父様が体を壊したのを機に畑を継ぐことに。退職後3年間、全国の農家を渡り歩き、有機農法やEM菌栽培などさまざまな農法に出会いました。

「有機やEMも環境によい農法ですが、どちらも有機肥料や菌がないと成立しないでしょう。何かに依存して野菜を育てることに抵抗があったんです。それで最後に自然農に出会ったんです」(井山さん)

その後、参加していた「世田谷環境学習会」で農業の現状と自然農の可能性について発表したところ賛同者が現れ、2009年に仲間10人と荒れ果てていた休耕地の開墾をスタート。これがせたがや自然農実践倶楽部の始まりです。現在の会員数は35世帯約67名で、世田谷区を中心に、渋谷区や港区など都心から通う人も。会員同士は畑を通じた緩やかなコミュニティを作り、農に関する勉強会を開いたり、収穫祭やバーベキュー、花火見学など季節ごとのイベントを楽しんでいます。

せたがや自然農実践倶楽部は年会費を予算にして自主運営。勉強会やイベントを開催するほか、東屋などの設備も会員による手作り

せたがや自然農実践倶楽部は年会費を予算にして自主運営。勉強会やイベントを開催するほか、東屋などの設備も会員による手作り

この日は共同作業日で長ネギの収穫とジャガイモの植え付けを。おいしそうな長ネギがいっぱい!

この日は共同作業日で長ネギの収穫とジャガイモの植え付けを。おいしそうな長ネギがいっぱい!

自然に寄り添い、無理をしない!

「会員には原則があってね。一つは指示しない、されない。二つ目が努力しない。最後にやりたくないことはしないの三つで、みんなで楽しくやる、ということが大事なんです。農業は一人ではなかなか続きませんよ」(井山さん)

共同作業は自由参加。手入れをするのも、しないのも自由!失敗と成功を繰り返して1年ほど経つと、四季折々の作付け計画を立てて進められるようになるそう。昨年は会員の1人が田舎の農業を継ぐためにUターンするなど、世田谷で農業を学び地方に帰る、そんな現象まで起こっています

「でも世田谷区の農地は現在約100ha。毎年5〜10haずつ減り続けていて、あと10年でなくなってしまう計算です。日本の農業も高齢化が進んでいますから、それをどうにか食い止めたいんです。この畑もマンションにしたほうが経済的にはずっといいかもしれませんが、私の考える価値はそこにはないんです」(井山さん)

「世界の『農』を世田谷から変えたい」と代表の井山ゴンジさん。砂漠に草を植えて命を吹き込むのが目標

「世界の『農』を世田谷から変えたい」と代表の井山ゴンジさん。砂漠に草を植えて命を吹き込むのが目標

会員は20代から70代と幅広い世代。畑では地位も仕事も年齢も関係なし。ニックネームで呼び合う

会員は20代から70代と幅広い世代。畑では地位も仕事も年齢も関係なし。ニックネームで呼び合う

井山さんが思い描く夢は、農家がみんなの食べ物をつくるのではなく、すべての人が自分の食べるものは自分でつくる、という世の中になること。その実現に向けて、今後は会の農地を増やし、「農」をますます身近にしたいと語る井山さん。自然農の指導にインドへ渡るなど、グローバルな活動もスタートしています。

世田谷から始まる次の時代の農業。まずは、私もベランダのプランターに雑草を植えるところから始めたいと思います。

(撮影:庄司直人)

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せたがや自然農実践倶楽部
開園日時:毎週日曜日 9:00~17:00(夏期 7:00~16:00)
>> http://www.setano.com/

施設概要

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