2013.04.09
『 IID GREEN DAY vol.9 – みどりの学校 – 』開催決定!
IID 世田谷ものづくり学校の春のイベント、【 IID GREEN DAY vol.9 – みどりの学校 – 】の開催が、来る4月27日(土)に決定しました!『みどり』をテーマに、さまざまなワークショップやマーケットの出店を予定しています。
長く住まう区民の話から、街の歴史を知るおもいでの世田谷。時を刻んできた街の片鱗や、今はなき姿が見えてくる。
古くから世田谷区とゆかりのある方に、ふるきよき世田谷の街を尋ねる「おもいでの世田谷」。第1回目は、三軒茶屋のすずらん通り商店街に40年以上前からお店を構える割烹「味とめ」の辻 教子さん。知る人ぞ知る老舗の名物女将に昔の三軒茶屋エリアやお店についてお話を伺いました。
東急田園都市線と世田谷線、2つの「三軒茶屋」駅を結ぶように伸びる小さな横丁が「すずらん通り」。お酒や美味しいもの好きに、お勧めの店が何軒もあるスポットです。
世田谷線側の入口からすぐの場所にある木造の建物が「味とめ」さん。創業43年目の風格を感じさせます。老舗にありがちな敷居の高さを感じさせないのは、女将の辻 教子さんの温かい人柄のせいでしょう。千葉県・鋸南町のご出身。いわし料理が並んだお店のメニューにもその影響がありますね。
「ええ。房総の鋸山(のこぎりやま)を越えて嫁いで来たんです。私が初めて世田谷に来たのは、昭和44年(1969年)春。渋谷駅から『玉電』の路面電車に乗ったのをよく覚えてますねぇ。次に来た同じ年の秋には、廃線になってなくなっていたんです。世田谷線を見ると当時が懐かしいですよ」
折しも自動車の数が増え、都内の路面電車が次々と廃線になった頃。街の姿も次々と変わりました。実は、世界の大都市で人と環境にやさしい乗り物として再び注目されている路面電車。世田谷では今でも三軒茶屋と下高井戸を結ぶ5kmの路線が現役です。
辻さんが見た世田谷は、映画『三丁目の夕日』シリーズにも描かれた高度経済成長期。その頃の「すずらん通り」、どんな感じでした?
「それはもう賑やか。40軒以上の小さな店が、すずらんの花が咲くように集まっていました。だから、名前もすずらん通り。その頃は焼肉屋さんが多かったです。時代の流れで三軒茶屋にもチェーン店が増えましたけど、うちと斜向かいの『きゃんどる』(欧風料理)さんは、ずっとここで営業しています」
すずらん通りの住所は、世田谷区太子堂。円泉寺(真言宗豊山派)に祀られた聖徳太子像が地名の由来です。ご主人と結婚を決めたとき「太子様のそばなら、商いもうまくいく」と直感したそうです。
味とめは、創業当初はふぐと天ぷらの専門店としてスタート。徐々に取引先の問屋や、地方から上京したお客さんの紹介で品数を増やしていきました。
「正統派の割烹をやりたい主人は怒るのよ。でも、商売をやるんなら生き延びなくちゃいけません。アイデアを考えるのはいつも私ですよ。自分じゃ『ロダンの考える人』って言ってるけど」
そんな旦那さんがあるとき病に倒れます。助けてくれたのは、同じすずらん通りのお店の方やお客様、仕入れ問屋の人々でした。
「主人にうなぎのたれの作り方を聞けなくなってしまって。そうしたら、ご近所の寿司職人が『穴子の骨で出汁がとれるようになったら、次はうなぎの骨でね』って、秘伝の味を教えてくれたの。他のお店には『肝を別に買って焼いてもいいね』とアドバイスをもらったり。あのときは嬉しかったです」
辻さんのご実家は、古くからある浄土真宗のお寺。お嫁に行く前は13体の仏像と寝起きをともにしていたそうです。小学生で終戦を迎えた、6人きょうだいの3番目。今では当たり前の「食べる」ということが困難な時代を厳しいしつけを受けながら経験しています。
下町風情がある世田谷の酒場。交わされる会話にどことなく気品を感じるのは、そんな女将さんの歴史にあるのかもしれませんね。顔なじみのお客さんもスマートに飲まれている印象です。
「つい最近では、学生時代から通ってくださった方が、教授になったらお祝いをうちでやろうという約束を覚えていてくれて。だから、赤飯を炊いて、鯛を焼いて、メニューにない献立を立ててね。そしたらもう、いらした11人が本当に喜んで。結局、ちっちゃな個人のお店が提供するものは、チェーン店のようなルールに縛られたものじゃないから、忘れないでくれるんです。ありがたいことですよ」
二人のお子さんも調理人になりました。以前には困ったうなぎの焼き方も、今では長男の富郎さんが習得。ご主人亡き後の調理場には、ふぐ調理人の免許を取って次男の浩さんが立っています。
朝9時半には店に立つという、元気ハツラツの74歳。のれんを守る女将さんの楽しい話と、長年愛されてきた滋味あふれる料理が、親戚の家にいるようにリラックスして味わえますよ。
たわわに実を付けた、びわの木。女将の辻教子さんが世田谷に嫁いだ時、実家のお母さんに貰った実から種を植えたところ、立派に育って店を見守る大切な存在に。飲食店街にある世田谷の自然って、いいですね。
大鍋で仕込まれているのは、看板メニューの「牛すじ煮込み」(530円)。下ごしらえを丁寧にしたその味は格別でした。
これからの季節にピッタリな「うなぎ串セット」(1360円)。白焼き、蒲焼き、ネギ焼き、肝焼き、立派なかぶと焼きまで付いて、これはビールが進みそう…。写真の肝吸いは150円、骨揚げは420円で食べられる。
取材が終わったスタッフを呼び止め「お腹いっぱい食べていきなさいね」といただいた、店の自慢料理。黒糖、ザラメ、日本酒で5日間煮込んだ「ママさんのきゃらぶき」をはじめ、どれもホッとする味で、味とめの愛される理由がわかります。甘ーいびわの実もご馳走さまでした!
住所: | 世田谷区太子堂4-23-7 |
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電話番号: | 03-3422-5845 |
営業時間: | 月~金 9:30~24:30/土・日・祝 15:30~24:30 |
定休日: | 不定休 |
この記事に関連するタグ:お昼ごはん, 三軒茶屋, 割烹, 外食・飲食店, 太子堂, 居酒屋
カルチャー誌からデザイン・建築の専門誌まで手がけるエディター。出張先での酒場探訪がライフワーク。「IID 世田谷ものづくり学校」から生まれた、日本の離島がテーマの新聞『季刊リトケイ』デスクも担当。
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