2013.07.08
地域を繋ぐコミュニティ酒場。経堂さばのゆ 須田泰成さん
ときにコメディライター、ときにコミュニティプロデューサー、ときに「さばのゆ」店主……。いくつもの顔を持つ須田泰成さん。経堂に住んで17年、須田さんが愛して止まない世田谷区・経堂に、コミュニティスペース「さばのゆ」を作ったのはいまから4年前のこと。「さばのゆ」には全国各地からおいしいものが集まり、毎夜、ユニークなイベントが開催されています。そんな「さばのゆ」仕掛人の須田さんに、お話しを伺いました。
世田谷の街に根ざした活動・取組みを行う人や、世田谷で活躍する「このひと」のインタビュー。それぞれの想いがある世田谷のお話。
面積あたりのパン屋の数が日本で一番多いといわれている世田谷エリアで、ひと際異彩を放つ「シニフィアン シニフィエ」。オーナーシェフの志賀勝栄さんは、低温長時間発酵のパイオニアとして多大な影響力を持つパン職人です。10月14日(月・祝)に開催される「世田谷パン祭り」ではトークショーも行う志賀さんに、パン屋がひしめき合う世田谷で開業した理由や作り手としての想いを伺いました。
[9月の特集] パンを楽しむ祭典「世田谷パン祭り2013」
世田谷くみん手帖編集部(以下、くみん手帖):「シニフィアン シニフィエ」のオープンは2006年10月なので、今月で7周年ですね。もともと、この立地を選ばれたのはなぜですか?
志賀さん(以下、敬称略):ここに縁があったと言えればいいのですが、実は何にもなくて(笑)。オーブンの背が高いので、スケルトンで3.5mくらい高さがある物件が必要でした。当初は、吉祥寺や三鷹、ギリギリ杉並区あたりで探しましたが、全然なくて。やっと見つけた物件がここだったんです。
くみん手帖:お客様はどのような方が多いですか?
志賀:僕のお店は、近所のお店の客層とバッティングしません。パンは日常品なので、普通は半径300mで勝負するんですけど、近所のお客様に頼らないパン屋を目指しました。
商圏は全国です。そのため、通信販売もしています。有名なパン屋ができたから、昔からあるパン屋さんが潰れるというのは僕的には嫌なので、共存できる形がいいなと思っています。僕の出勤時間は毎日22時ですが、そこからパンを作って終わりです。なので、オーナーが営業中にいないという、ヒドいパン屋です(笑)。
くみん手帖:作ることにフォーカスしてらっしゃるんですね?
志賀:はい。もともとお店というのは、そこの商品が並ぶことで一番いい雰囲気やイメージを作ることがすべてだと思っているので、それに全力投球するだけです。
くみん手帖:パンといっても何種類もありますよね。それぞれの個性を引き出すために、研究もされてこられたのでしょうか。
志賀:それはパンだけをやっていてもダメなんです。食事って、パンもおかずもデザートもあって成立するでしょう?まずは、自腹を切って勉強することが大事だと思います。僕は、24、5歳から今までずっと続けています。お金はそれにしか使ってないですよ。フランス料理も和食もイタリアンも、食べられる料理すべてを知りたいんです。自分がいろいろ食べてきたから、最終的なパンの味の落としどころが決められる。自分でゴールを決めないと作れませんから。
くみん手帖:逆に食べる方に求めることはありますか?
志賀:ありません。それは嗜好品だから。一つひとつのパンに、このパンの味はこうあるべきという自分の想いがないと作れませんが、その僕の想いと食べ手の想いがマッチした時には、喜んでいただけるのかもしれないですね。
ただ僕が考えているのは、食べるというのはその人の健康を維持することなので、気を使っていただけたらいいなと思います。食事全般ですけど、その中で、パンでできること。素材の追求も含め、それをできるだけやっていこうと思っています。
くみん手帖:『世田谷パン祭り』は“発酵”がテーマですが、志賀さんは低温長時間発酵のパイオニアと言われていますね。
志賀:その方法は僕が30歳の時、師匠から教わりました。20世紀梨がなんで柔らかいのかというと、完熟する前に穫ったら1カ月寝かせて糖度を上げて出荷するかららしいんです。パンもそうすれば美味しいかもしれないと。僕は、発酵時間に12時間はみた方がいいと思っています。
くみん手帖:「世田谷パン祭り」ではトークショーも行われるそうですが、そのような場で技術をオープンにしているのはどんな想いからですか?
志賀:僕の場合、伝統的な作り方を踏襲しないで、自分なりにアレンジして作っています。基本は大事ですが、アレンジする楽しみを持ってもいいんじゃないですか?という想いで、オープンにしています。
でもね、僕のイメージとニュアンスですべては進むので、レシピを出しても同じものは作れないです。作る人の考え方や人間性が違うと同じものにはならないですよ。
くみん手帖:その人間性で大切なことは?
志賀:“どれだけ捨てられるか”かな。ある一つのパンの、特化した美味しさはどこか。それ以外は全部捨てる。そのパンの良さをとことん、そこだけを表現できるようにしていく。パン作りって、そういうことです。
「寝る時間と食べる時間以外は、働いていていい」と話す志賀さん。一つのことを追求し続けるストイックな姿勢とは裏腹に、穏やかで物腰の柔らかい人柄がまた魅力的です。そんな志賀さんから生み出されるパンは、素材の味が存分に活かされた感動の味わい。10月14日の「世田谷パン祭り」で、ぜひ「シニフィアン シニフィエ」の唯一無二のパンを味わってみてください。
プロフィール
志賀勝栄
1955年生まれ。(株)アートコーヒー、(株)ユーハイムを経て、2006年「シニフィアン シニフィエ」を下馬にオープン。著書『酵母から考えるパンづくり』(柴田書店)など。
[9月の特集] パンを楽しむ祭典「世田谷パン祭り2013」
住所: | 東京都世田谷区下馬2-43-11 1F |
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電話番号: | 03-3422-0030 |
営業時間: | 11:00〜19:00 |
定休日: | 不定休 |
URL: | http://www.signifiantsignifie.com/ |
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沢田美希
編集・ライター(ASOBOT inc.)
高校卒業後、上京。デザイン系専門学校インテリア・雑貨スタイリスト科卒。その後、カルチャー誌の編集、音楽会社映像部門勤務を経て、ASOBOTへ入社。『metropolitana』『Starbucks Press』『Dean&Deluca』『Grass Roots』をはじめとするメディアを通して、ライススタイルや旅、カルチャーなどに関するコラムやフィクションを執筆。
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