このひとの世田谷

世田谷の街に根ざした活動・取組みを行う人や、世田谷で活躍する「このひと」のインタビュー。それぞれの想いがある世田谷のお話。

2026.01.06

代田「代田餅搗き」を保存・継承する「三土代会」

例年1月に代田八幡神社、2月に羽根木公園など、世田谷各地で披露されている「代田餅搗き(だいたもちつき)」。毎年、楽しみにしている方も多いのではないでしょうか。天保年間(1830年頃)から代田地区で受け継がれてきた伝統行事で、6人あるいは8人が円になって一気に搗きあげる独特の手法と、息の合った餅搗き歌が特徴です。今回は、この伝統行事を保存・継承する活動を行っている地域団体「三土代会(みとしろかい)」の幹事代表・柳下 隆(やぎした たかし)さん、柳下 明(やぎした あきら)さん、山田 幸雄(やまだ ゆきお)さんにお話を伺いました。

左から三土代会の柳下 隆さん(幹事代表)、山田 幸雄さん、柳下 明さん

代田村の農民が守り続けた、暮らしに根ざす餅搗き文化

現在の世田谷区北東部(現在の地名では大原・代田など)には、かつて代田村と呼ばれた集落がありました。天正18年(1590)、吉良氏が没落した際に、家臣であった清水・秋元・齋田(2家)・柳下・山田・大場の7人がこの地にとどまって帰農し、開墾したことが、代田村の始まりとされています。彼らはのちに「代田七人衆」と呼ばれ、現在も旧家として続いています。

「開墾した当初は、皆で円乗院(代田七人衆の菩提寺)の付近に寝泊まりし、朝になると各地の畑へ通うという共同生活をしていたと聞いています。しかし移動が大変なため、地域ごとに分かれて住むようになったそうです。農作業に持参する保存食として、寒餅と呼ばれる保存用の餅を作り始めたのが、代田餅搗きの起源といわれています」(柳下 隆さん)

代田餅搗きで使われる臼は一般的な臼に比べて間口が広く、浅いのが特徴(写真提供 三土代会)

 

餅搗きは、一年で最も寒い大寒(1月下旬~2月初旬)のころに行われていました。材料は、一般的な水稲ではなく陸稲(おかぼ)と呼ばれる畑作の米です。代田村は水田の面積が限られていたため陸稲が主流で、2~3割の陸稲にアワ・ヒエ・トウモロコシを7割の割合で使っていたといいます。

「陸米(おかぼ)は硬いので、すり潰すのに労力がいる。それで6人とか8人といった大勢で同時に作業をする、という方法が編み出されました。餅搗きは5、6軒ごとの小さな集落単位で行われ、1日で計7俵(約420kg)もの量を搗いたと伝わります。夜10時ごろに始まり、終わるのは日が出る頃と、かなりの重労働だったようです」(柳下 明さん)

「搗き上がった餅は、水を張った甕(かめ)に沈めて保存していました。これは空気に触れないようにする昔ながらの保存方法で、上から順に取り出して焼き、醤油などを付けて畑に持参していたそうです。水に浸しておくため餅は徐々に崩れてやわらかくなっていきますが、それでも7月ごろまで食べられたと聞きます。こうした暮らしが昭和10年ごろまで続いていたそうです。私たちが子どもの頃にもまだ家に杵と臼があり、友達を集めて餅搗きをして遊んだ記憶があります」(山田さん)

代田餅搗きの特徴「こねどり」「カケ搗き」「アゲ搗き」とは

三土代会のみなさんに、代田餅搗きの特徴を解説していただきました。

「最大の特徴は、6人または8人で同時に臼を囲んで行う独特の手法が、現在まで伝承されていることです。工程は3つあります」(柳下 明さん)

「代田餅搗き唄は時代とともに変化していますが、最後に歌われる『納めの臼』は、変わらず受け継がれています」(山田さん)

 

1. こねどり

温めた臼に蒸した餅米を入れ、細い杵を持つ6~8人のつき手が餅米をつぶしながらこねます。このとき、2~3人で代田餅搗き唄を歌い、搗き手の動きを揃えます。

2. カケ搗き

こね終えたら、細い杵を反時計回りに振り下ろしていきます。臼の中の餅を「回す」ように搗くことで、特に力をかけなくても全体に均等な粘りが生まれます。

「カケ搗き」の様子。6人で臼を囲み、反時計回りに振り下ろしていく(写真提供 三土代会)

3. アゲ搗き

最後は、太く重い杵を持つ搗き手がひとりで仕上げます。重労働のため、搗き手は合図して次の搗き手へ交代します。手を止めることなく、テンポよく交代する華麗な動きが観客の目をひきます。

 

戦争で一度は途絶えるも、昭和29年に復活

代田餅搗きは戦争により一度は途絶えてしまいました。しかし、空襲で焼失した円乗院が昭和29年に移築・再建されたのをきっかけに、復活を望む声が上がり、代田七人衆の末裔が中心となって三土代会を結成。代田八幡神社の「三土代曾もちつき」をはじめ、近隣の幼稚園・保育園・小学校のイベント、世田谷区の祭りなどで餅搗きを披露しています。こうした活動が評価され、平成11年11月24日、代田餅搗きは『世田谷区指定無形民俗文化財(民俗芸能)』に登録されました。

夏に開催された練習会の様子。こうした会を通じて、次世代に技を継承している(写真提供 三土代会)

 

「現在の会員は64人で、常時活動しているのは35人程度。最高齢は83歳、最年少は20歳です。現役世代は仕事や子育てに忙しいので、中心となって活動しているのは60代以上ですね。秋から冬の繁忙期には、打ち合わせから後片付けまで作業が多くて大変ですが、幼稚園や小学校のPTAの皆さんなど、地元の方々に支えられています。祖父母・両親の世代から受け継いできた代田餅搗きの伝統を守るのが、私たちの役割。これからも責任を持って、続けていきたいです」(柳下 隆さん)

3人は代田七人衆の子孫。今も力を合わせて伝統を継承している

 

2026年の代田八幡神社「三土代曾もちつき」は1月18日(日)に開催されます。また、2月に開催される「第47回せたがや梅まつり」でも、恒例の餅搗きが披露される予定。冬の風物詩となっている伝統の餅搗きと、できたての美味しいお餅を楽しみに、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

◆保存団体 三土代会

問い合わせ先 世田谷区教育委員会 03-5432-1111(代表)

 

文  渡辺裕希子(合同会社まちとこ)
撮影 壬生真理子(合同会社まちとこ)

 

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合同会社まちとこ

「まちとこ」は様々な得意分野を持ったプロフェッショナルな女性6人の編集・デザインチームです。「楽しい」「心に届く」を大切に、デザイン、編集、撮影を請負い、自ら商品制作、情報発信しています。

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