みんなの世田谷レポート

世田谷で行われたイベントやワークショップなどの体験レポート。くみん手帖編集部およびくみんライターが参加した感想や、当日聞いたお話、エピソードなどをご紹介。

2014.01.22

都会の暮らしに農的時間を。用賀で話題の「糸紡ぎカフェ」

用賀の街角にお茶やお酒を飲みながら糸紡ぎができるカフェがあると、近ごろ話題になっています。カフェでおしゃべりしながら、みんなふわふわの綿から糸を紡いでいるというのです。どうしてカフェで糸紡ぎ?という疑問と、ビールも飲めるという誘いに心を惹かれ、お店を訪ねてみました。
[1月の特集]暮らしをもっと素敵に!世田谷のものづくり

お店のマスコット、国産オーガニックコットンのベア。土と水と太陽が作った大地からのプレゼントです

お店のマスコット、国産オーガニックコットンのベア。土と水と太陽が作った大地からのプレゼントです

コットンと音楽に包まれる心地いいカフェで

用賀駅から徒歩5分。賑わう商店街を抜けた先に、糸紡ぎカフェ「Tokyo Cotton Village」がありました。お店の前には白い綿の実をつけた鉢植えが並んでいます。店内は大きな窓から光が差し込む暖かな雰囲気で、一見普通のカフェですが、奥に目をやると、ふわふわなコットンの山とアンティーク調の木製工具が。壁一面には、紡ぎ途中の糸を巻いたスピンドルがずらりと並んでいます。

「ここでは、栃木県渡良瀬で栽培した国産オーガニックコットンを使って、摘んだまま状態のコットンから種を除いて繊維を整え、糸を紡ぐという一連の作業が体験できます。紡いだ糸はキープして、次来たときに続きができるんですよ」

そう話すのは代表の冨澤拓也さん。紡いだ糸は撚り止めという工程を経て手織りもできるので、赤ちゃんの小物作りやギフト作りなど、目的を持って来店する方も多いのだそう。30分ほどの練習で糸を紡げるようになるそうです。私も早速挑戦してみましたが、糸がどうなっていくのか、奥が深そうな予感がします。

通りに面した大きな窓のお店。床板から窓枠、棚まで、内外装のすべてがお店の代表である冨澤さんのDIY!

通りに面した大きな窓のお店。床板から窓枠、棚まで、内外装のすべてがお店の代表である冨澤さんのDIY!

ゆったりしたカウンターとテーブル席のある店内。奥に見えるのがスピンドルキープ。DJ機材もあります

ゆったりしたカウンターとテーブル席のある店内。奥に見えるのがスピンドルキープ。DJ機材もあります

日本古来のコットンを守り、拡げる拠点として

ここでは、日本固有の綿種である「和綿」というオーガニックコットンを扱っています。江戸時代には盛んに栽培されていましたが、明治時代の工業化以降、扱いやすい輸入綿が主流となり栽培されなくなってしまった、いわば綿の絶滅危惧種です。出荷先がない中で、後世に種を残すために育て続けられている貴重なもの。

「広告会社に勤めていた2007年に、ある企画で和綿に出会ったのがきっかけです。日本のコットンの産業自給率が0%であることを知り、衝撃を受けました。Tシャツ世代の僕にとって、自分の表現であるファッションの原料がこの国にないなんて格好悪いなと。何としてでも守っていかないと、と思いました」(冨澤さん)

仕事として和綿栽培に1年間関わった後、自ら代表となり2008年に和綿の情報を発信するグループTokyo Cotton Villageを立ち上げ、渡良瀬での栽培と糸紡ぎのワークショップなどの活動を本格化させます。2012年に活動の拠点としてこの糸紡ぎカフェをオープンさせました。

コットン畑でのワークショップでは種まきから収穫まで体験できる。参加者募集はお店のホームページから

コットン畑でのワークショップでは種まきから収穫まで体験できる。参加者募集はお店のホームページから

活動の規模が拡大するにつれ栽培するコットンの量も増加。このコットンがお店での糸紡ぎに使われます

活動の規模が拡大するにつれ栽培するコットンの量も増加。このコットンがお店での糸紡ぎに使われます

小さな繊維が紡がれ糸になる瞬間に感激!

今回は、まだ日も高かったのでビールはあきらめ、コーヒーをいただきながら糸紡ぎに挑戦しました。まず、コットンをひとつかみ取り、種を取り出す「棉繰り機」にかけます。機具のレバーを回して2つのロールを回転させると、あいだにコットンが吸い込まれ、種だけが手前に残るしくみです。次に、種を除いたコットンに金属製のブラシをかけて繊維をよくほぐします。それをひと塊にまとめたところで下準備が完了。

いよいよ糸紡ぎ。コットンの塊から繊維をひとつまみ引っ張ると、短い繊維が絡まりあってスーッと糸状にくり出てきました。それを人差し指と親指を使って縒っていくのです。コットンの繊維は切れてしまいそうなほどやわらかいので、引っ張るときには絶妙な力加減が重要です。また、普段にはない指先の動きをするので最初はかなり戸惑いますが、上手に撚りができてくると、何とも言えない達成感が感じられます。15分ほど続けると、細い毛糸のような糸ができてきました。

棉繰り機。2本のロールの部分にコットンを当ててレバーを回すと繊維部分が吸い込まれ、種だけが残ります

棉繰り機。2本のロールの部分にコットンを当ててレバーを回すと繊維部分が吸い込まれ、種だけが残ります

スピンドリルを使った糸紡ぎ。右手で棒をクルクル回して糸を撚っていきます。繊維を引く力加減が重要

スピンドリルを使った糸紡ぎ。右手で棒をクルクル回して糸を撚っていきます。繊維を引く力加減が重要

1日30分の農的時間で心にゆとりを

めまぐるしく変わる流行のファッションに囲まれながら、それがどうやって作られているのか私たちはあまり知りません。冨澤さん曰く、用賀の街は東名高速の入口がある、いわば東京の玄関。そんな街にあるTokyo Cotton Villageで日本古来のコットンに触れ、その大切さに思いを馳せれば、私たちの暮らしも変わっていくのではないか、そんな気がしてきます。

「服も畑からできることを思い出して、1日に30分間でも糸紡ぎという『農』的な時間を生活に組み入れてほしいんです。糸紡ぎをしていると、心にゆとりが生まれるし、気持ちも整理できます。早く、たくさん、簡単に、という現代社会の逆をいくこの店のあり方は、僕から社会へのプレゼンテーションなんです」(冨澤さん)

今後は世田谷でのコットン栽培も視野に入れ、学校や地域とのコラボレーションを進めたいという冨澤さん。おしゃれなカフェで過ごす農の時間、今度はビールを飲みながら糸を紡ぎたいと思っています。

マイスピンドルをキープ!出来上がった糸は、店内にある手織り機で作品を作ることもできます

マイスピンドルをキープ!出来上がった糸は、店内にある手織り機で作品を作ることもできます

代表の冨澤拓也さん。音楽プロデューサー、イベントプランナーなど、多彩な経歴の持ち主

代表の冨澤拓也さん。音楽プロデューサー、イベントプランナーなど、多彩な経歴の持ち主

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Tokyo Cotton Village
東京都世田谷区用賀4-31-17
TEL 03-6805-6265
営業時間 14:00-23:00
定休日 日曜日
東急田園都市線用賀駅 徒歩5分

店内での糸紡ぎは無料(作った作品の持ち出しを希望する場合は料金がかかります)
毎週土曜日15:00〜 糸紡ぎ初心者向けのワークショップを開催(¥2000)
(通常営業時間は、お客様対応の関係で糸紡ぎのレクチャーができない場合があります)

施設概要

  • 東京都世田谷区用賀4-31-17
    住所: 世田谷区用賀4-31-17
    電話番号: 03-6805-6265

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世田谷くみん手帖編集員

世田谷の旬なヒト・コト・モノを見つけて区民のみなさんにお届けするために、日々、世田谷の街をリサーチ中!

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