聞き取った音を正確にマネするのは、意外に難しい
子ども用の絵カードというと、市販にあるのは「あ」は「あり」、「い」は「いぬ」…などといった名詞の絵カードがほとんどです。でも、実は、言葉の発達がゆっくりなお子さんにとっては聞き取りにくい場合もあるそうです。
「例えば、「りんご」という単語は「り・ん・ご」の3つの音がありますが、言葉の発達がゆっくりなお子さんにとっては最後の「……ご」だけがなんとなく残る感じです。これは、私たち大人がはじめての外国語を聞き取って正確にマネをするのが難しいのと同じです」(石上志保先生)
そこで石上先生が考案したのが、オノマトペを使った、まったく新しいタイプの絵カードです。オノマトペとは「ころころ」や「きらきら」など動きやものの状態などを音で表現した言葉のこと。繰り返し音が多く聞き取りやすくマネしやすいことや、意味がイメージしやすいことから、言葉の発達との関連について研究がすすめられています。
「オノマトペを選ぶ時は、生活の中でよく使うもの、短くてマネしやすいもの、ジェスチャーがつけやすいものを優先しました。例えば、「し」には「しくしく」や「しとしと」などもありますが、子どもとの生活で多く使いそうでジェスチャーもつけられ、短くてマネしやすい「しーっ」を採用しています。また、イラストの口の形などもわかりやすく伝わるように細部までこだわりました」(石上先生)
言葉の世界を広げ、親子のコミュニケーションを楽しんでほしい
音と一緒にジェスチャーをつけるとより伝わりやすい。
石上先生が日々子どもたちと向き合う中で心がけているのは、「聞き取りやすいように、マネしやすいように、理解しやすいように」話しかけようということです。オノマトペは赤ちゃんや言葉の発達がゆっくりなお子さんにとってとても聞きやすい言葉なので、このオノマトペカードが子どもたちとのやり取りの中でとても役に立っているそうです。
「例えば、「はさみで切るよ」というのは、「はさみ」と「切る」という2つの言葉を覚えなければなりませんが、オノマトペで「ちょきちょき」と言えばそれだけで伝わります。音の繰り返しや音そのものを表現したものが多いオノマトペを使った語りかけは、音から意味や様子をイメージしやすいという特徴もあるため、簡単で頭に残りやすくマネもしやすいのです」(石上先生)
絵カードを広げてカルタのように遊ぶことも。裏面はひらがな。
オノマトペカードで言語指導をしている親子からは、「毎日、自分から絵カードを持ってきて一緒に遊んでほしがります」「〇〇の絵カードが大好きなんですよ」などと言われることも多いそうです。
オノマトペの特性を最大限に活用し、子どもたちの言葉の世界を広げ、親子のコミュニケーションを楽しんでほしい。世田谷発のまったく新しい絵カード「オノマトペカード」にはそんな願いが込められています。
石上志保[言語聴覚士]
障害児通園施設、地域の福祉センター等での小児、成人期のコミュニケーション支援の経験を経て、現在は都内総合病院の小児科ほか、地域のクリニックで言語聴覚療法に従事。ダウン症のある息子さんとの生活経験を生かし、暮らしの中で言葉の力を育てる方法について検討を続けている。
オノマトペカード
https://machitoco.com/onomatopoeiacard/
オノマトペカードの誕生について
当初、石上先生はフリーイラストを使った手作りの絵カードで子どもたちの言語指導をしていたのですが、オノマトペに合うフリーイラストを探すことに不便を感じるようになりました。そこで、もっと聞き取りやすいオノマトペを使った絵カードを作りたいと、かつて先生の言語指導を受けていた世田谷のお母さんたちで運営する、デザイン・編集会社「まちとこ」に相談しました。この絵カードにどのくらい需要があるのか?など、まちとこのお母さんたちも不安がありましたが、「困っている親子がいるなら作ろう!役立ててもらいたい!」と製作を決断。足りない資金はクラウドファンディングで集い、たくさんの人たちの協力を経て「オノマトペカード」は誕生しました。