やわらかな餅と、甘酸っぱい梅の甘露煮がマッチ
梅大福は梅まつりの会場、および店舗で1個216円(税込)で販売
ふんわりとやわらかな餅の中に、上品な甘さの白あんと瑞々しい梅の甘露煮が丸ごと入った「梅大福」。梅の香りを生かすために、一般的な大福で使われる粒あんやこしあんではなく、さっぱりとした味わいの白あんを使っています。もち米は、固くなりにくい関東産の「ヒメノモチ」を使用。添加物は使っていないため、作ったその日が賞味期限です。
店主の貞利さんは三代目。創業者は祖父の貞助さんで、父の貞一さんは二代目
江戸時代から続いていた浅草橋の老舗「亀屋近江」からのれん分けを許され、1938年(昭和13年)5月に開業した和菓子亀屋。85年以上にわたって地元・経堂の人々に愛され続けている老舗です。
梅大福が生まれたのは約30年前のこと。梅まつりの主催者から「何か梅まつりの名物を作ってほしい」という依頼を受け、二代目の貞一さんが考案しました。
「梅まつりのイベントとして餅つきをやっていたこともあり、“餅と梅を使ったらいいんじゃないか”と梅大福を思いついたようです。当時はまだ羽根木公園に雑木林が多く、梅林があまり整備されていなかった時代。梅まつり自体の認知度も低く、1日100個、200個程度しか売れなかったと聞いています。でも、回を重ねるごとに梅林が整備されて梅の種類も増えていくと、都内屈指の梅の名所として知られるようになり、梅大福の売り上げも伸びていったようです」(貞俊さん)
平日は1日1000個、土日は1日3000個以上を販売
店内では、大福や団子などの和菓子のほか、マドレーヌなどの洋菓子も販売
今では平日でも1日1,000個以上、土日など多い日には1日3,000個以上売れるほど人気のお土産となった梅大福。梅まつりの会場はもちろん、経堂の店舗でも販売されていますが、タイミングによっては「売り切れていて買えなかった」ということもあるそうです。
「梅まつり会場にある売店の営業時間は10時から16時ですが、毎日午前中の売れ行きを見てから午後の売り上げを予測し、お昼頃から経堂のお店で追加分を作り始めます。なので午前中に売り切れてしまった場合でも、午後には再び販売していることも多いですよ」(貞俊さん)
確実に購入したい場合は、午前中早めの時間帯か、午後に足を運ぶのがよさそうです。
豪徳寺や経堂など、世田谷にちなんだ和菓子も人気
「招福もなか」と「欅」は、世田谷にゆかりのある逸品を集めた「世田谷みやげ」に認定されている
和菓子亀屋では、ほかにも世田谷にちなんだユニークな和菓子を販売しています。例えば、豪徳寺の招き猫をかたどった「招福もなか」は、猫好きの方にも人気でお土産にぴったり。白(こしあん)、ピンク(白あん)、茶色(つぶあん)の3種類がセットになっていて、おめでたい席でも喜ばれています。
「私が子どもの頃、家族でよく豪徳寺に祖父の墓参りに行っていました。当時から境内に招き猫が並んでいたので、これを具象化してもなかを作ろうと考えついたんです。猫の表情をはっきりと見せ、背中には亀屋の名前を入れるなど、細かいところまでこだわりました」
ほかにも、この地に暮らしていた江戸幕府お抱えの医者が持っていた大量の本がお経の本だという噂が広まり、お経の書物をおさめたお堂として経堂と呼ばれるようになった、という逸話にちなんだ「経堂」、世田谷区の樹である欅(けやき)をイメージした「欅」など、世田谷にちなんだ和菓子を次々と考案している舘野さん。その原動力は、地元・世田谷を愛する思いです。
「昔はうちの近所に3軒、駅の反対側にも2軒の和菓子屋がありましたが、今は地元の店はうちだけになってしまいました。スーパーやコンビニで手軽に美味しい和菓子が買える時代にお客様に選んでいただくには、“ここでしか買えない”いう価値が必要。世田谷は観光資源が豊富な街なので、これからも新たな名物を考案するなど、地元に密着したクオリティーの高い商品を作り続けたいと思っています」(貞俊さん)
経堂駅から徒歩1分ほど、すずらん通りを入ってすぐのところにある
文/渡辺裕希子(合同会社まちとこ)
撮影/壬生真理子