2013.07.20
世田谷の夏夜を彩る「たまがわ花火大会」の舞台裏
毎年35万人以上の人が集まるたまがわ花火大会が、35年もの歴史を重ね、今年も8月17日(土)に開催されます。花火大会のはじまりから現在の取組みなど、「世田谷ならでは」の花火大会ができるまでを、実行委員会事務局の浅利修司さん(世田谷区砧総合支所 地域振興課 地域振興・防災担当係長)に伺いました。[ 7月の特集 世田谷の夏のお祭り ]
世田谷にはたくさんの「訪れたい場所」がある。古くから愛されてきたお店や、知る人ぞ知る穴場など、地元の情報をご紹介。思い出に残る昔の世田谷から今の世田谷まで。
[連載『その食べ物の生まれるところ』第1回]最近の日本ではあらゆる食べ物が気軽に手に入ります。でもその食材がどんな風に生まれてどこから運ばれてきたのか、意外と知らないことが多いもの。食べ物の生まれたところをきちんと教えてくれて想像させてくれるお店こそ、これからの時代大切なんじゃないか。そう考えた私たちは、世田谷の食のお店を巡ることにしました。その第一回目が、この国産ハチミツの専門店「百花恵」です。ミツバチをこよなく愛すご主人、平野博史さんの話に引き込まれ、ハチミツを買うならこんな方から買いたい、と思わずにいられないお店です。
「百花恵」は平野さんが十年前に自宅を改築して始めたお店で、茶沢通りの代沢十字路近くを一歩入った住宅街の中にひっそりとあります。お店の中へ入ると店棚には菩提樹、アカシア、くろがねもち、と樹木の名が記されたハチミツの瓶がずらり、すべて国産天然ものです。平野さんの養蜂仲間など出どころのしっかりしたものばかりで、お値段も手ごろ。ご近所さんや顔なじみのお客が多いので、ご主人や奥さんも一緒に窓脇の小さな椅子に腰かけてお客さんとのんびり会話するのが、このお店のいつもの光景です。さっそく私たちも平野さんに話を伺います。
「ミツバチはね、もういいよってくらい、よく働くんです」
ハチの話になると、次々とあふれるように言葉が出てくる平野さん。数年前まで、ご自身も自宅の裏でミツバチを飼っていたと聞いて納得です。「飼っているとね、ハチのことがよくわかるんです」
「だいたい普通のハチが生きられるのが60日から90日ほど。長くても3ヶ月ですよ。はじめのうちは外へ蜜を取りには行けない、内勤バチです。誰に教わるわけでもないのに、掃除係や女王バチのお世話係、門番など役割があって皆その仕事をこなします。1〜1ヶ月半が経った頃に、ようやく外へ蜜を採りに行ける、外勤バチになるんです」
内勤外勤(!)という驚きとともに、生まれながらに役割をもっているハチの生態に、改めて宇宙のフシギを感じます。
「朝まだ薄暗いうちに飛んでいって、大体一日に7〜8往復します。4キロほど飛んであちこち寄りながら戻ってきます。飼ってるとね、やっぱりかわいいですよ。雨の日なんか、もういいんじゃないのってこっちが言いたくなるくらい働き者です」
その口ぶりはハチが愛おしくてたまらない様子。そんなハチが一生懸命集めてきた蜜を横取りするのは忍びないのでは…?
「そうなんです、だから私たちがハチミツを採るときは、全部は採らない。ハチが子育てしたり、自分たちで食べる分を除いて、残りをいただきます」
平野さんは必ず現地を訪れるか、試食用を味見してハチミツを仕入れています。
お店の棚に並ぶハチミツの瓶には、すべて菩提樹、アカシア、みかん、さくらんぼ、くろがねもち、とさまざまな花や樹木の名前が記されています。ハチは自由に飛び回るのに、なぜ特定の木の蜜ができるのでしょう?
「花の咲き初めの頃に、空っぽの巣板をその木の近くに置くんです。たくさん蜜が採れる花や木が近くにあると、ハチはそこにばかり通うっていう習性があるんですね」
人気はクロガネモチ。ハチミツを好きな人は、花の香りを楽しむ人が多いのだそうです。
店内の小さなテーブルには各種ハチミツが置かれていて、小さなスプーンで味見ができるようになっています。さくらんぼはふわっと華やかで落ち着いた味。みかんはうっすらと柑橘系の香りがしてさっぱりした味。蕎麦は、色が濃くて味にクセがあり少し食べにくいですが、ミネラルが豊富です。不思議なのは、ハチミツって鼻で嗅いでも匂いはしないのに、口にふくむと香るのです。
例えばクローバー味の蜜はこんな農場で採れるんですよ、とクローバー畑の写真を見せてもらいました。最近は毎年同じ蜜が手に入らないのが悩みだそう。花が蜜をふくのは25〜30度くらいの気温の時。寒い季節から急に気温があがると、花は咲いても蜜は採れないのだそうです。
子どもの頃から、世田谷のこの家で暮らしてきたという平野さん。ハチを飼い始めたのには、ご近所に住んでいたアメリカ人の牧師さんに対する恩返しの意味がありました。
「子どもの頃ね、ついそこの今保育園になっているところに、R.A.メリットさんというアメリカ人の牧師さんが居たんです。自宅を開放して寺子屋のようなことをされていたのですが、僕たちはそこで遊んだり、いろいろなことを先生から教わりました。その先生がハチミツを好きで、いつも家にハチミツがあったんです。」
この先生が晩年長野に引っ越しされてから、先生の食べるハチミツを採取できないかとハチを飼い始めたのだそう。最期まで先生のハチミツがきれることのないよう定期的に届け続けました。ハチミツ屋を始めた理由も平野さんのお人柄。お店の雰囲気にそのあたたかみがよく表れています。植物好きでお話好きの奥さんもとても可愛らしい方です。
ここまで紹介しておいて最後の最後に何ですが、平野さんの本音をひとこと。
「今、国産のハチミツは市場のだいたい4%くらい。天然のはちみつはたくさん採れないですから。残りの96%は海外産です。だからね、あんまりたくさんのお客さんに来られると困っちゃうんです。ほんとに好きな人だけに来てもらえればいいなと思っています」
それでもすっかり平野さんの話に引き込まれ、平野さんご夫婦の大ファンになった私たち。これからも通うことになりそうです。
(撮影:庄司直人)
連載『その食べ物の生まれるところ』
今都会に暮らす私たちは、食べ物の生まれる所からどんどん遠ざかっていると言えます。食卓に並ぶ野菜や肉、魚など食材はすべて、もとは自然のなかで育った植物や動物たち。生産地は地方でも、きちんと選んで美味しく食べてもらうことを真剣に考えているお店が世田谷にはたくさんあります。その食材がどんな土地で栽培され、どう食べると美味しいのか。教えてくれて「食べ物の生まれるところ」を想像させてくれるのが、実はいいお店。そんな食の伝道者をご紹介していきます。
住所: | 世田谷区太子堂5-29-3 |
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電話番号: | 03-3410-8317 |
営業時間: | 10:00~19:00 |
定休日: | 月曜日 |
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長崎県生まれ、東京在住。編集・企画・執筆。 地域コミュニティ、まちづくり、モノづくりをテーマに執筆。各地の地域活動、地産品の取材を重ねる。『世田谷くみん手帖』編集部員。ここでは「地方と都心をつなぐこと」「世田谷の人と人、人とお店のつながり」づくりをテーマに書いていきます。
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