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ぐるり世田谷

世田谷にはたくさんの「訪れたい場所」がある。古くから愛されてきたお店や、知る人ぞ知る穴場など、地元の情報をご紹介。思い出に残る昔の世田谷から今の世田谷まで。

2013.12.30

心和やかに新しい年を迎えたい。世田谷観音でつく除夜の鐘

今年も残すところあとわずか。この一年を振り返りつつ、来年はどんな年にしようか…と思い巡らせていると聞こえてくる除夜の鐘。鐘の音を聞くと、なぜか心が穏やかになるものです。その除夜の鐘を、大晦日12:00より「世田谷観音」にて誰でもつくことができます。普段からご近所の人々に愛されている世田谷観音。冬の澄んだ空気も手伝って、気持ちがスッとする場所です。

世田谷観音の正門より。仁王門では両脇の仁王像が出迎えてくれる

世田谷観音の正門より。仁王門では両脇の仁王像が出迎えてくれる

安らぎと温かみのある境内へ

閑静な住宅地内、東京学芸芸大学附属高校の向かいに位置する世田谷山観音寺(通称 世田谷観音)。一歩足を踏み入れると、まるで京都を思わせる景色が広がっています。都内でありがら、周囲にビル群や高層マンションがないからかもしれません。心の安らぎを得に、ふらりと立ち寄りたくなる雰囲気が漂っています。

参道を進むと門の両脇には、平安時代に造られたという迫力ある仁王像が構えています。都内最古の仁王さまに見守られながら門をくぐると、そこは色づく葉や春に咲き誇る準備をする染井吉野、枝垂桜、鬱金(うこん)桜が囲う境内です。こじんまりとした、温かみのある境内にほっとします。

正面左手の池には、「夢違観音(ゆめちがいかんのん)」が立っています。法隆寺の87cmの夢違観音を模写したお姿とのこと。朗らかな表情をされた観音さまは、悪い夢を良い夢に変えてくださるといわれています。手を合わせると、観音さまの後ろにある池の水の音とともに、悪い夢も心の中も一緒に洗い流されたかのよう。浄化したいことがあるとき、観音さまが力になってくれるかもしれません。

本堂に奉安されており、かつては伊勢長島(三重県)興昭寺の秘仏だった「聖観世音菩薩」

本堂に奉安されており、かつては伊勢長島(三重県)興昭寺の秘仏だった「聖観世音菩薩」

「夢違観音」像の近くでは水のせせらぎが心地よく聞こえる

「夢違観音」像の近くでは水のせせらぎが心地よく聞こえる

どこにも属さない「単立寺院」

近所の人にとっては憩いの場でもあり祈願の場でもある。毎日散歩がてら手を合わせていく人も多い

近所の人にとっては憩いの場でもあり祈願の場でもある。毎日散歩がてら手を合わせていく人も多い

キリスト教に造詣が深い睦賢和尚らしく、本堂には慈愛に満ちた「マリア観音」も奉安されている

キリスト教に造詣が深い睦賢和尚らしく、本堂には慈愛に満ちた「マリア観音」も奉安されている

世田谷観音は、1951年(昭和26年)に睦賢(ぼっけん)和尚が10年かけて建立したお寺です。ここは、「檀家寺」ではありません。つまり、一般のお寺のような檀家制度がなく、お墓を持たず葬儀をあげませんが、人々の願いが叶えられるよういつでもお祈りをする「祈願寺」として、訪れる人々の幸せを見守っています。

さらに、世田谷観音が他のお寺と大きく異なるのは、どこの宗派にも属していないという点です。それは、睦賢和尚のルーツに遡ります。出稼ぎのために長野県から東京へ上京した睦賢青年は、洋菓子店で働く傍ら、仕事場の向かいにあった教会へ通うようになりました。そこで、ハンセン病患者のために人生を注いだ英国人女性コンウォール・リー(1857〜1941)さんと運命の出会いを果たします。リーさんに洗礼を受けた睦賢青年は、自分も人の役に立ちたいという夢を持つようになります。その後、リーさんの勧めで始めたパン屋事業で成功し、現世田谷観音の土地を買って寺院を建てました。このように、実業家であった睦賢和尚が独力で開いたお寺は、どこの宗派にも属さない「単立寺院」となったのです。

400年前の梵鐘を鳴らす

本堂の左脇に、ひっそりと梵鐘(ぼんしょう)が佇んでいます。この梵鐘こそ、除夜の鐘の音を鳴り響かせる鐘です。なんと、1605年に造られたというこの梵鐘は、奈良県極楽寺に伝わる什物だったもの。歴史の波にもまれ、多くの梵鐘が第二次大戦時の金属類回収令のもと溶解されてしまったものの、奇跡的に残った梵鐘がありました。世田谷観音の梵鐘も、そのひとつ。新潟県に残されていた梵鐘を睦賢和尚が取り寄せ、今に至っています。

春は桜に囲まれる「六角堂」。閉ざされた扉の向こうには、国指定重要文化財が奉安されています。それが、「不動明王ならびに八大童子」です。1272年(文永9年)に、大仏師・運慶の孫にあたる康円の手によって完成したとされています。八大童子を従えた力強い不動明王像は、国内で2体しか残っていない、とても貴重な文化財。毎月28日には、「お不動様 月例御縁日」として扉が開かれています。

旧石薬師寺だった鐘楼堂。除夜の鐘はここで鳴り響く

旧石薬師寺だった鐘楼堂。除夜の鐘はここで鳴り響く

国指定重要文化財が奉安されている六角堂。春には見事な桜の花に囲まれる

国指定重要文化財が奉安されている六角堂。春には見事な桜の花に囲まれる

地域のためにも、開かれたお寺でありたい

「阿弥陀堂」内の五百羅漢坐像を両脇に、目を閉じて瞑想タイム。非日常の空間で雑念を忘れたい

「阿弥陀堂」内の五百羅漢坐像を両脇に、目を閉じて瞑想タイム。非日常の空間で雑念を忘れたい

四季折々の自然が楽しめる境内

四季折々の自然が楽しめる境内

ここには威勢のいい明るい声で、訪れる一人ひとりを歓迎している人物がいます。睦賢和尚の孫にあたる太田執事です。世田谷観音を“開かれた寺にしたい”という想いのもと、場所の提供をしたりワークショップなどのさまざまなイベントを開催したり、積極的に活動されていています。近寄りがたい場所ではなく、気軽に訪れたい場所として愛されているのは、太田執事の気さくな人柄の影響も大きいのでしょう。

さらに、阿弥陀如来と東京都指定有形文化財である五百羅漢坐像九躯が奉安されている「阿弥陀堂」を毎週末に開放し、誰でも瞑想できる環境を提供しています。また、毎月第二土曜日の早朝の「朝市」、訪れる人と作り手のコミュニケーションの場「世田谷てづくり市」の会場にもなっています。地域のため、人のためになりたい。睦賢和尚の想いは、脈々と継がれています。

世田谷観音の境内にいると、知らずと呼吸が深くなります。それは、自然が多く、空気がキレイな証拠。新しい年を迎えるにあたり、観音さまや仏さまと向き合って心静かに手を合わせてみてはいかがでしょう。

※「除夜の鐘 点打供養」は12/31(火)12:00〜、お一人1回200円(饅頭付き)です
※ 次回の「世田谷てづくり市」は2014/1/26(日)開催予定です
※「朝市」は毎月第二土曜日6:00〜8:30まで開催しています

(撮影:小林友美)

施設概要

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紹介者プロフィール

沢田美希

編集・ライター(ASOBOT inc.)

高校卒業後、上京。デザイン系専門学校インテリア・雑貨スタイリスト科卒。その後、カルチャー誌の編集、音楽会社映像部門勤務を経て、ASOBOTへ入社。『metropolitana』『Starbucks Press』『Dean&Deluca』『Grass Roots』をはじめとするメディアを通して、ライススタイルや旅、カルチャーなどに関するコラムやフィクションを執筆。

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