2022.07.25
本の新しい楽しみ方、世田谷区電子書籍サービス
世田谷区立図書館の電子書籍サービスをご紹介します。
世田谷で行われたイベントやワークショップなどの体験レポート。くみん手帖編集部およびくみんライターが参加した感想や、当日聞いたお話、エピソードなどをご紹介。
「演劇」と聞くと、台詞を覚えて芝居することをイメージしますが、サラリーマンが素のまま舞台に登場したり、一般の人が台本なしに出演するユニークな劇団があるのだそう。その劇団とカフェを運営する「NPO法人ら・ら・ら」(以下、「ら・ら・ら」)が、お母さんたちを集めた演劇ワークショップを行うと聞き、訪れてみました。(世田谷くみん手帖編集部/岩崎雅美)
「ら・ら・ら」の拠点は、二子玉川駅と等々力駅の間にある多摩川そばの一軒家。壁を埋めつくす本棚と、キッチンスペースもある広々とした空間は、普段は「楽ちん堂カフェ」というコミュニティカフェで、もともとは芝居の稽古場でした。
というのも、ここを運営するのは、一人芝居の第一人者であるイッセー尾形さんの演出家である森田雄三さんとプロデューサーの清子さんの森田夫妻。森田さんたちが、全国を周りワークショップ形式の上演を行ったのが演劇ワークショップの始まりです。
出演者は各地の一般の方がほとんどで、出演する方の子どもたちを一時的に預かる機会や、全国から森田さんたちを尋ねてくる人々の滞在拠点となる機会を通して、「NPO法人 ら・ら・ら」は生まれました。
巡業期間を除き運営されている楽ちん堂カフェに集まるのは、近所の子どもたちやお母さん、買い物帰りにふらっと顔を出す人から、全国各地から訪れる人まで、年代も立場もさまざま。手作りの料理と一杯づつ豆をひいたコーヒーを味わいながら、演劇の本を読んだり、おしゃべりをしたり、子どもたちは自由にかけまわったりと、思い思いに過ごしています。ここに流れる空気はどこか懐かしく、温かい。自身も子どもの頃からこの家によく訪れていたという事務局の尾辻さんはこう話します。
「子どももお母さんも老人も、一緒に集う場が大切だと思っています。一緒だからこそ、面白いものが生まれますし。楽ちん堂カフェを、自分の家のように使ってほしいんです」(尾辻さん)
楽ちん堂カフェは正式には半年前にオープンしましたが、前身は子どもが自由に滞在し、一緒に食事をして寝泊まりするフリースクールとして3年間運営されていました。子どもたちの受け入れを行い、今もみんなのお母さん的存在である森田清子さんは、こう話します。
「今の子は学校が終わってもたまる場所がないし、居場所がないでしょう。子どもたちにとって、学校の枠を外れた第3の居場所がここだったのね」(森田清子さん)
そうにこにこと話すおおらかな森田さんを見ていると、子どもたちの安心感が伝わってくるようです。
今日の演劇ワークショップに参加するのは、「自主保育 野毛風の子」のお母さんたち8名。子どもたちは積み木や絵本に夢中で、お母さんたちがあやしながら丸テーブルを囲んでいると、奥から車いすの森田さんがやってきました。さあ、いよいよ演劇のスタートです!
森田さんから挨拶や演劇について説明が始まるのかなと思いきや、なかなか始まる様子はありません。お母さんたちと世間話に花を探せているようで…。
「あなた、学生時代はどんな友達がいたの?」
「そう、あなたはどんな学生だった?」
過去の友達や、恋愛話など、他愛もない質問を一人ひとりに投げかけていきます。普段子どもの話が中心のお母さんたちは、少し戸惑いながらも思い出して答えている様子。子どもたちが入り中断しながらも、テンポよく進むやりとりを聞いているうちに、これが森田さんの演劇ワークショップのスタイルなのだと、ようやく気がつきました。
一通り終えた後、次は1列に椅子を並べて座り、前方に椅子を2脚配置。その椅子に、順番にお母さんたちが呼ばれて座っていきます。途中取材カメラマン(男性)も呼ばれる即興ぶり。
「ちょっとそこで会話をしてみて」
「その後断ってみて」
「あなたなんだか強そうだね。相談に答えてみて」
やがて、お母さんたちが前に座ると、個性が見えてきたから不思議です。その人の空気感やまとっているものが伝わってきます。そしてお母さんたちが二言三言と言葉を交わすうちに、芝居らしきものになり始めました。これが、イッセー尾形を生んだ森田さんの演出法だったのです。
あっという間に2時間が経過し、初めてのワークショップは終了。手作りのサンドイッチが並べられてランチタイムへ。お母さんたちに感想を聞いてみると、
「もともとNPO風の子の活動を理解してくださって、居心地のよい場所だった。声をかけてもらって今回参加しましたが、とても新鮮でした。また続けていきたいです」(山本さん)
「普段会うお母さん同士がかっこよく見えました。日常を持ってくるという発想が新鮮でしたね。ぎくしゃくさも面白かった」(山崎さん)
みなさん戸惑いながらも面白さを感じ取ったようです。改めて森田さんに話を聞いてみました。
「今日はオリエンみたいなものでね。普通の会話から始まるでしょ。それがスタイルなの。風の子のお母さんとはこれからも何度かやっていきたいと思ってるよ。面白いのが作れそうでね。発表会はこの場所がいいな」(森田さん)
「森田は一般の人を大切にします。その人が芝居をすることで、居場所を作ることを目指しています。進め方が独特ですよね。お母さんも一人の人間であることを認めることが大事で。今回のワークショップを通してそういったことも伝えています」(尾辻さん)
森田さんの舞台に立つ人は、どこにでも居そうな、自分とも重なる人たち。等身大のありのままだからこそ、笑いや共感が生まれ、認め合えるのかもしれません。「みんな違って、それでいい」。ふとそんな言葉が浮かんできました。
楽ちん堂カフェでは、時間を気にせず自分の家のように過ごしてほしいと、月額制で何度でも通えてコーヒーなども自由に飲んで過ごせる新しいプランがスタートしました。今年の6月からは、フリースクールから発展した新たなプロジェクトも始まるそうです。
多様に活動するNPO法人ら・ら。ら。芝居もカフェも、今まで気づかなかった自分自身や周りの人々に出会い気づくことで、当たり前の日常が豊かになっていく、そんな居場所のように感じました。
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NPO法人ら・ら・ら
世田谷区野毛2-28-23
03-3702-8468
http://www.la-la-la.or.jp/
楽ちん堂カフェ
http://www.la-la-la.or.jp/cafe/
住所: | 世田谷区野毛2-28-23 |
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電話番号: | 03-3702-8468 |
この記事に関連するタグ:2014年2月の特集, ものづくり, アート, イベント, カフェ, ワークショップ, 子ども, 演劇, 玉川エリア, 野毛
埼玉生まれ。世田谷在住。『世田谷くみん手帖』編集部員。企業のCSRレポート企画・編集を経て、地域と都市をつなぐプロジェクトデザインに関わり、旅するように仕事をしています。地域コミュニティ、手づくりのものに興味があり、「顔のみえる世田谷」を発掘中。
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