地域も世代も性別も超えて。演劇で繋がる、「産み育て」の輪

「産み育て」を考えるワークショップ最終日。北九州、水戸からのビデオレターから、それぞれの考えを共有します。

「産み育て」を考えるワークショップ最終日

地域や世代を飛び越えて、「産み育て」について考えよう。

この演劇ワークショップは、2008年から世田谷パブリックシアターで継続的に実施している事業のひとつ。毎回、社会的なテーマを決めて、演劇の手法を用いながら、参加者がそのテーマについて考えていきます。

「体を動かしながら表現や対話することで、頭で考えているだけでは得られない、たくさんの発想を得ることができます」と語るのは、世田谷パブリックシアターの九谷倫恵子さん。確かに、机に座ってウンウン考えているよりも、街をぶらりと歩いている時なんかの方が、いいアイディアが浮かんだります。

参加者は15名ほど。赤ちゃんや子ども連れのお母さんを中心に、子育てを終えた年配の方、若い世代の方もちらほら。

参加者は15名ほど。赤ちゃんや子ども連れのお母さんを中心に、子育てを終えた年配の方、若い世代の方もちらほら。

今年は、北九州、水戸、世田谷の3ヵ所で、同時期にワークショップを行いました。各地で「産み育て」について考え、ビデオレターから参加者同士が想いを交換する「北九州~世田谷~水戸をめぐる文通プロジェクト」を発足。

人形劇をつくるうちに、自然とグループに一体感が。

まずは、地域ごとのグループに分かれてテーマ決め。「産み育て」について関心のあることを、1枚の紙に1項目ずつ書いて並べ、「どうしてその項目を書いたのか」を話し、共有します。そして、みんなが出した項目の中からからテーマを3つに絞り、人形劇を作って表現します。ちなみに、北九州のテーマは「働く」「子どもは3人」「表現力」。世田谷のテーマは「働く」「孤育て」「子育て観の違い」。水戸のテーマは「働く」「昔の子育て」「同調圧力」でした。それぞれのテーマに、地域性が感じられます。

でも、いきなり劇を作れと言われても、一体どうしたら……?

「日常生活を思い出して、それぞれのテーマをよく表しているシーンを選んで、遊びの感覚で表現してみてください」(阿部さん)。

そう言われると、「昨日、主人からこんなことを言われて悲しくなった」とか「たまには夜飲みに行きたい」とか、どんどん言いたいことが湧いてくる。自分では言いにくいことも、人形を通してなら言いやすいような。いろんなエピソードを話し合ううちに、「うちも同じ!」「わかる、わかる」と、グループに一体感も生まれます。

「私」と自分を指さし、誰かを「あなた」と呼びかけ、その人の所に動いていくゲーム方式の自己紹介で緊張をほぐします。

「私」と自分を指さし、誰かを「あなた」と呼びかけ、その人の所に動いていくゲーム方式の自己紹介で緊張をほぐします。

テーマからイメージされるキーワードを紙に書いて、イメージをどんどん広げます。

テーマからイメージされるキーワードを紙に書いて、イメージをどんどん広げます。

完成したら、人形劇をビデオレターにして、各地で鑑賞し合います。感想もビデオレターで届くので、自分たちの作品が他の地域の人たちにどう受け止められたのかがわかります。

私が印象的だったのは、東京の「孤育て」。子育てに煮詰まった時、その感情は言葉ではうまく言い表せないことが多い。日常のワンシーンを思い出しながら劇をつくる過程は、「あぁ、自分はこんなことが言いたかったんだ」と、改めて自分の気持ちを整理する、いいきっかけになりそうです。

演劇を通じて、人々の間にある溝をつなげたい。

参加した方からは、「ママ友との付き合いに悩んでいたのですが、もっと積極的に繋がりをつくる努力や勇気が必要なんだなって思えました」という声や、「ママのリアルな気持ちがわかるようになり、コミュニケーションの取り方が変わりました」などという声が。ワークショップを通して、それぞれが抱えていた悩みの解決の糸口が見つけられたようです。

最後に、進行役の阿部さんにもお話を伺いました。
「私は出産して、初めて子育ての大変さを思い知りました。それまで演劇の世界は子育てとは無縁でしたが、演劇も子育てに対して、もっと貢献しなければと思いました。最近は、同じママの間ですら、変に気を遣ったり、違う価値観を認められなかったり、溝が多いように感じます。私は、世界にできたこの溝を、演劇を通じて繋ぎたいのです。地域も世代も性別も環境も違う人たちが集まって、みんなでどうしたらより良い子育てができるのか考える。これから産み育てる立場になる若い世代の方々にも、ぜひ参加してほしいです。一緒に演劇を体験することで、きっと新しい世界が開けます」

みなさん演技がとっても上手! 普段ためている思いや、うっぷんを吐き出しているのかな?

みなさん演技がとっても上手! 普段ためている思いや、うっぷんを吐き出しているのかな?

進行役は演出家の阿部初美さん。演劇集団円に所属。2010年に出産し、子育てしながらワークショップを中心に活動中。

進行役は演出家の阿部初美さん。演劇集団円に所属。2010年に出産し、子育てしながらワークショップを中心に活動中。

劇をつくる過程で、自分を客観的に見たり、相手の立場を考えられるようになったり。それは、世界の溝を繋ぐための、大きな一歩となるでしょう。

八百屋さんが作る、野菜たっぷりランチ「やおまんキッチン」

旬の野菜や果物と、カフェのおすすめメニューが書かれた看板

旬の野菜や果物と、カフェのおすすめメニューが書かれた看板

もっと野菜の美味しさを伝えたい

祖師谷大蔵駅北口から、祖師谷通りを8分ほど歩くと、ブルーの看板に「やおまん」と書かれた看板が目に入ります。旬の野菜に果物、人気の自家製ぬか漬けや白菜漬けが並ぶ青果店「八百萬商店」は、2012年5月に店舗の老朽化による建替えに伴い、八百萬商店直営のカフェ「やおまんキッチン」を併設しました。

店頭には、その日のおすすめ野菜泥ねぎやチンゲン菜、果物ではオレンジなどが並びます。看板には、カフェのおすすめメニューも。店に入るとパーテーションを境に、左側には色鮮やかな野菜や果物の並ぶ青果店スペース、右側は16席ほどの木のぬくもりを感じるシンプルなカフェスペース。カウンター席もあり一人でも入りやすい雰囲気です。

青果店ならではのカフェメニューは、野菜をふんだんに使いお肉と魚をメインにした日替わりランチ2種類とカレーなどの定番メニュー3種類。日替わりランチでは30種類以上の野菜が摂れ、メイン以外の副菜やデザートまで毎日変わるこだわりも、人気の理由です。

左が青果スペース、右がカフェスペース

左が青果スペース、右がカフェスペース

シンプルなカフェスペース

シンプルなカフェスペース

野菜ジュースが苦手でも飲めてしまう!?

この日、私がいただいたのはサーモンのグリル香味ソースとフレッシュスムージー。サーモンはふわふわと柔らかく、グリルした野菜との相性もぴったりで、小鉢にはほうれん草の白和えや、青果店でも購入できるぬか漬けも。かぼちゃのサラダを作るときに、種類よってはホクホクせず、ペースト状になってしまうので、さつまいもを加えると綺麗な形になるなど、調理のポイントまで教えてもらいました。

野菜ジュースが苦手な私は、内心ドキドキしながらフレッシュ―スムージーを注文。出てきたジュースは緑色で、青菜の味しか想像できませんでしたが、一口飲んでみると、甘い!フルーツの甘みだけで作ったフレッシュスムージーで、ほうれん草や人参、バナナ、オレンジに、旬の果物を加えるそうで砂糖を使わなくてもこんなに甘くなるものかと感心しました。とろりとした口当たりで、これだけでも満足感が得られます。お客さまの中には、自宅で挑戦してみたけどうまくいかず、レシピを尋ねる方がいらっしゃるのも納得。

30種類以上の野菜が摂れるランチメニュー

30種類以上の野菜が摂れるランチメニュー

とろりとした喉越しが癖になるフレッシュスムージー

とろりとした喉越しが癖になるフレッシュスムージー

日替わりのランチ以外にもテイクアウトが可能なシフォンケーキも人気。ケーキに使う野菜や果物も日替わりで、取材した日は、かぼちゃとゆずがショーケースに並んでいました。
重さのある野菜を使ってふわふわのシフォンケーキを完成させるまでには、何度も試行錯誤を繰り返したそうです。

美味しさだけではなく、健康面もサポート

カフェの店長を務めるのは「八百萬商店」三代目の奥さま安藤裕子さん。カフェのオープン前から野菜ソムリエの資格を取得するなど意欲的な裕子さんは「もっと野菜の美味しさを伝えたい」とカフェの併設を提案し、オープンまでの一年間、カフェビジネススクールや調理学校に通ったそうです。

ご近所の方の利用が多いため、年配の方やダイエット中の方の希望に合わせてミニサイズのランチを用意したり、毎日通う方が飽きないメニューを考えることも。そんな工夫が楽しいと話す安藤さん。

「お客さんの健康を考えながらメニューを考えていますが、今後はどのように身体に良い点があるのか、世代別の食事にどんな食材、調理方法が適しているかなどを伝えていきたいです」(安藤さん)

老舗の青果店が仕入れる野菜を美味しく調理し、健康面でもサポートしてくれるカフェ。あなたも野菜不足を解消してみてはいかがですか?

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やおまん

[営業時間]11時30分~18時
[定 休 日]月曜・日曜・祝日定休(青果店は日曜日のみ休み、祝日はお問合せ下さい)

[12月の特集] 人情も新しさも!商店街で元気になる買い物を

尾山台まちゼミで、老舗魚屋さん直伝の魚のさばき方をマスター!

尾山台まちゼミ、刺身の盛りつけ講座

尾山台まちゼミ、刺身の盛りつけ講座

世田谷初、尾山台まちゼミ

駅前に連なる尾山台の商店街。人通りも多く、バラエティに富んだお店で活気づいています。しかし、全国の商店街を見渡せば“シャッター街”と呼ばれるような通りがどんどん増えているのが現実です。

尾山台の商店街は、さらなる活性化のためにさまざまな取組みを始めています。そのひとつが、去る11月に初めて開催した「まちなかゼミナール」、通称まちゼミなるもの。商店街のお店の人が専門店ならではの専門知識や情報、コツを無料で教えてくれるのが特徴です。

11月の1ヶ月の間に、約30店がそれぞれ1回〜数回の講座を開きました。ラインナップを見ると、畳屋さんの減農薬ミニ畳づくり、化粧品店のヘッドマッサージ、餃子屋さんの包み方と焼き方、不動産や保険の無料相談などなど、幅広いバリエーションのようです。

尾山台駅前ビルにある魚辰に集合

尾山台駅前ビルにある魚辰に集合

まちゼミで、刺身盛りつけに挑戦!

今回私が選んだのは、魚屋魚辰の店主、大武浩さんが教える、刺身盛りつけ講座です。この講座も他の講座と同じく、参加費は一切なし。材料費として500円だけ支払います。後で分かることですが、これはかなりの大盤振る舞い。立派なお土産を入れての値段だったのには驚きました。

魚辰の場合は1日2回の講座で、前半後半それぞれ定員の3名が参加。前半の講座の様子を拝見させてもらいました。参加者の3人はそれぞれ折り込み広告を見て参加されたそう。「魚がおろせれば、料理のレパートリーが広がりそうだから」「家では全然やらないから教わろうと思って」と、皆さん普段から家で使っている包丁片手に、大武さんのお話をじっと聞き、技を見、実践していきます。大武さんがさばくといとも簡単に見えるのですが、実際にやってみると…しかし、つまずく度に適切な指示があるので、案外スムーズに進んでいきます。

スルメイカの解体、アジの三枚下ろし、最後はまぐろのさくもお刺身用に切り、おいしそうに見える盛りつけのコツを教えてもらって、1時間。ぎゅっと内容の濃い、これから家でずっと役立てる技術を伝授してもらいました。

魚をおろす技術もさることながら、大武さんが間に挟む魚の話がおもしろいのです。
「この時期のスルメイカは、わたも多くて一番おいしい。塩辛を作るなら今だね。青森で獲れるんだけど、このイカがおいしいからマグロがやってきて、有名な大間のマグロが獲れるんだ。スルメイカはヤリイカなんかと違って3枚皮があるからおろすのも大変だけれど、安いし漁獲量も多いし、なりよりおいしい」「アジは3枚に下ろしたら骨の部分は、一夜干しにするといいよ」「イカもアジも刺身にするときに細く切れ目を入れておくと醬油がなじみやすい」などなど、次々に挙がる質問に答えながら、魚についての知識を伝えてくれます。

最後にアンケートを記入し、自分で盛りつけた刺身を持って帰る参加者の方々はみんな満足そうでした。みなさん、食卓に魚が上がる回数が増えそうな気がします。

尾山台まちゼミ共通の、開講あいさつをする大武さん

尾山台まちゼミ共通の、開講あいさつをする大武さん

それぞれの受講者に魚の扱い方のポイントを伝授

それぞれの受講者に魚の扱い方のポイントを伝授

先生のデモンストレーション後、3枚おろしにもチャレンジ

先生のデモンストレーション後、3枚おろしにもチャレンジ

魚の盛りつけ、完成!

魚の盛りつけ、完成!

まちゼミが、商店街に新しい風を吹き込む

「今日参加したお客さんは、魚辰さんでお魚買うようになるんじゃないかな。直にやりとりして、“魚屋さん”の良さを実感したと思うんです。他の店についても同じで、まちゼミを通してしたいことは、お店と商店街のファンづくり。小売店は敷居が高い、入りづらいというイメージを払拭して、まずは来てみてよと誘うのが目的なんです」と話すのは、商店街でまちゼミを担当している高野さん。もちろんご自身も商店街の洋品店を家族で営んでいます。

タカノ洋品店での高野さん

タカノ用洋店での高野さん

まちゼミの発端をうかがってみると、始まりは大型スーパーが出店した時期に、尾山台駅周辺の4商店街が一緒になにかをやろうという機運が高まったことだそう。すでに愛知県岡崎市、長野県松本市など全国の商店街で実践されつつあるまちゼミをやってみようということになり、高野さんもさまざまなお店に協力を願い出たといいます。

「個別にゼミを開いている店はあっても、ある一定の時期に複数のお店が同時にゼミを開くということは今までなかったんです。なので、こういうことをやりたかったんだよと張り切ってくださる店も結構ありました。こちらから特に口を出さなくても、皆さん独自の講座を考えてくださいます。普段からのお得意さんはもちろん、まちゼミをきっかけに新しいコミュニケーションがそこここで生まれていますよ」(高野さん)

まちゼミをきっかけに、ここ数年で商店街に加入した店が“商店街の環”に加わったことも、功績だと高野さんはいいます。お客さんを呼び込むだけでなく、商店街のメンバーに新しい風を吹き込むことにもなったまちゼミ。大盛況のうちに初回を終え、すでに次回開催が待ち望まれています。

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