一流の材料で100%手づくりの洋菓子を販売するカフェ「パイ焼き茶房」

パイ焼き茶房

パイ焼き茶房

世田谷の農家や市場から仕入れた野菜を使って

「パイ焼き茶房」に入ると正面はケーキのショーケースのある洋菓子販売コーナー、右手はカフェコーナーで壁面は月替わりのギャラリーになっています。今月は近所の幼稚園児のかわいい絵がかかっていました。
昼時はいつも満員の「パイ焼き茶房」、その人気の理由は何なのでしょうか。パイ焼き茶房の生活支援員の名古屋靖子(なごややすこ)さんが、そのこだわりを教えてくれました。

「とにかく食材に気を使っています。野菜は、区内の農家や市場から直接仕入れた新鮮なものですし、お菓子に使うバターなども最高級のもの。また、調理の下ごしらえに手間をかけるなど、細かい工夫が味の違いになってご好評いただいているのだと思います」(名古屋さん)

ランチの一番人気はカレーにレモン果汁をたっぷりかけて食べるレモンカレー、レモンの酸味がさわやかです。飲み物のメニューでは、黒豆のジュースという甘酸っぱいオリジナルジュースがあり、ホット、アイスともにちょっと癖になる味。老若男女問わずに根強い人気があるそうです。10時と14時に焼き上がる温かいアップルパイも人気です。また、カフェで働く障害者を支えるために、ここでは多くのサポーター(ボランティア)が仕入れや調理などでカフェの運営を支援しています。

「サポーターの数は中高生の体験学習なども含めると年間数百名にもなります。障害者は職員やサポーターの支援を受けながら、お客さんの注文をとり、コーヒーをいれたり、ランチを運んだり、洋菓子を販売したりしてカフェの仕事をしています。障害者の数は今は15名で、3つのシフトに分かれて働いています。」(名古屋さん)

明るく開放的な店内

明るく開放的な店内

店内の販売コーナー

店内の販売コーナー

レモンカレーセット(800円)

レモンカレーセット(800円)

区内果樹園のりんごやプルーンでお菓子づくりも

「パイ焼き茶房」の洋菓子は「パイ焼き窯」という別の作業所に所属している障害者が作っています。「パイ焼き窯」の管理者で就労支援員の鹿島法博(かしまのりひろ)さんに洋菓子づくりについて伺いました。

「ここでは約25名の障害者がパテシィエやサポーターの支援を受けながら、洋菓子を作っています。作業所で作っているからと侮らないでください。見た目は普通の洋菓子ですが、味はどれも本格高級洋菓子。その理由は3つのこだわりにあります。」(鹿島さん)

パイ焼き窯

パイ焼き窯

一流の材料で勝負

「1つめのこだわりは、一流の材料を使っていることです。プロの菓子職人に負けないおいしい洋菓子を作るために、最高のものを使っているのです。パイ焼き窯では約70品目の洋菓子を製造していますが、保存料を使用せず、小麦粉は国産の無漂白粉、砂糖、黒糖も国産です。新鮮な地卵にチョコレートはベルギー産。コストは高くなりますが、『パイ焼き窯の洋菓子はおいしい』と評判になりお客さんのリピーターができることで、作っている障害者の大きな喜びとなり、働くことの意識向上につながるのです。」(鹿島さん)

材料にこだわったケーキ

材料にこだわったケーキ

手作りが基本

「パイ焼き窯の2番目のこだわりは作業工程にあります。最初から最後まで手作りにこだわり、機械は使用していません。機械で製造したお菓子は画一的な味になりますが、手作りのお菓子は材料本来の味が出ます。

『本日の菓子作り』とホワイトボードに書かれた指示を見て、障害者は自分の得意な菓子を選択し、自分で作ったレシピ(材料と重さ)を作ります。流れ作業や分業は一切せず、材料の計量から形成まで、一連の作業を一人でこなすことに。

お菓子作りの作業

お菓子作りの作業

見て覚える、聞いてメモして覚える、くり返して覚える。習熟の度合いは一人一人違いますが、こうして商品に責任を持つことで、どんな仕事に就く場合にも必要な基礎力を身につけるのです。
パイ焼き窯ではパイ焼き茶房での販売のほか、イベントの特別注文や近所の飲食店に卸す分などで1日に30万円相当の洋菓子を作ることもあります。このように大量のお菓子を作る作業所は全国にも類を見ないそうです。」(鹿島さん)

世田谷とのコラボレーション

「パイ焼き窯の3番目のこだわりは、地元・世田谷とのコラボレーションにあります。区内の果樹園で生産されたりんごやプルーンを使ってお菓子作りをしています。特にアップルパイは秋のリンゴの収穫とともに販売を開始し、収穫が終わると販売も終了するという数量限定のパイ。区内のりんご農家の方から収穫に来て下さいと直接連絡が入ります。大ぶりのアップルパイ、素材の味とせたがやの思いが詰まった逸品です。」(鹿島さん)

世田谷のりんごが詰まったアップルパイ

世田谷のりんごが詰まったアップルパイ

「パイ焼き茶房」のギャラリーとイベント

パイ焼き茶房の店内の壁面はレンタルギャラリーになっています。レンタル料は1ヵ月1万円ととてもリーズナブル。このギャラリーによって、店内の雰囲気が毎月ガラッと替わり飽きないと評判です。

また、毎月第3水曜日14:00~16:00には「パイ焼き茶房でサロン楽描(らくがき)と八百屋ジャズの歌声喫茶」が開催されています。中高年がなつかしい歌を皆で歌う会で、料金はお茶とお菓子付で900円。予約不要で誰でも自由に参加できます。

歌声喫茶の風景

歌声喫茶の風景

その他にも大テーブルを借りて絵画教室を開催している人がいたり、その横では普通にお茶しているお客さんがいたりと、とにかく老若男女、千客万来なのがパイ焼き茶房です。

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パイ焼き茶房
世田谷区等々力2-18-1
営業時間:10:00~19:00
定休日:日・祝

パイ焼き窯
世田谷区等々力2-36-13
電話:03-3702-0459

始めてみよう、体が喜ぶぬか漬けライフ

お野菜のほか、こんにゃくや高野豆腐、金柑のぬか漬けまで!

お野菜のほか、こんにゃくや高野豆腐、金柑のぬか漬けまで!

ふわふわしっとりの生ぬか初体験

ぬか漬けマラソンは、世田谷区内の施設やカフェ、個人宅などキッチン設備のある場所で不定期に開催している、ぬか床づくりのワークショップです。この日は、主宰のおかべなおえさんのご自宅で行われました。
あらかじめ用意するのは、容器と捨て漬け用の野菜、塩や赤唐辛子など家にあるもの。生ぬかは、おかべさんご用達の山形県大蔵村産の無農薬のものを使用します。「生ぬかを食べたことありますか?」の質問に、首を横にふる私たち。「どうぞ食べてみてください」と言われて口に含むと、ぬか漬けのイメージとは違って、きなこのような味わいに「甘い!美味しい!」の声が。

さっそくぬか床づくりに取り掛かります。作業は思っていたより簡単で、生ぬか、塩、水を混ぜるだけ。静かに混ぜないと、生ぬかがふわふわと舞うため、優しくゆっくり混ぜていきます。均等に混ざったらしっとりとした手触りのよいぬか床ができあがりました。
そこに、各自持参した捨て野菜やとうがらし、昆布を入れてぬか床づくりは終了。あとは自宅で2~3日後の天地返しや捨て野菜の入れ替えを行いながら20日間ほど(季節によって捨て漬け期間は変わります)ぬか床内の乳酸菌が増えるのを待ちます。すぐにぬか漬けライフが始まると思っていましたが、そこは良いぬか床を育てるために我慢。

生ぬかは、きなこのような甘い味わい

生ぬかは、きなこのような甘い味わい

はじめてのぬか床づくり

はじめてのぬか床づくり

ふわふわ舞う生ぬかに水と塩を加え、優しく混ぜます

ふわふわ舞う生ぬかに水と塩を加え、優しく混ぜます

なるほどエプロンシアター

おかべさんオリジナルのエプロンシアター。ぬか床のしくみをわかりやすく説明してもらいます

おかべさんオリジナルのエプロンシアター。ぬか床のしくみをわかりやすく説明してもらいます

高野豆腐のぬか漬けにみんなビックリ!

高野豆腐のぬか漬けにみんなビックリ!

エプロンシアターという言葉をご存知でしょうか?子どもに話を聞かせる手法のひとつで、話し手が舞台となるエプロンを着用し、ポケットから動物や食べ物のキャラクターが登場する人形劇のこと。おかべさんは、お手製のエプロンシアターの手法で、ぬか床の中で何が起こっているのか、発酵の仕組みを教えています。どんな菌が育ちどのような働きをするか、菌の種類によって好む場所が違うことなど、小さな世界の仕組みをわかりやすく学ぶことができました。

「ぬか床の作り方やテキストだけでは、ぬか床の仕組みがわかりにくく、日々のお手入れの目的が伝わらないと思いました。視覚で覚えてもらうためにエプロンシアターを使っています。仕組みがわかると初心者でも失敗が少ないと思うんです」(おかべなおえさん)

食材が次々に出てくる楽しい実演

おかべさんのぬか床を使い、下ごしらえのポイントと、実際に漬けた食材を取り出しながら仕込みのポイントを実演。定番のきゅうりやにんじん、なすの他にこんにゃくや高野豆腐などの変わり種も。家庭用の小さなぬか床にこんなに食材が入るの!と驚くほどお皿いっぱいのぬか漬けがテーブルに並びました。一夜漬けから長いもので2週間以上漬ける食材も。出てくる食材一つ一つに「どのくらいの期間漬けるんですか?」など家での実践に備えて質問が飛び交います。

時間はすっかり正午をまわり、お腹もすいてきたところでランチタイムに。おかべさんお手製のぬか漬けで、化学調味料が入っていない素材そのものの味を美味しくいただきました。食感の違いでいろいろなぬか漬けが作れると実感。食事の際も参加した皆さんと、上手に漬けるコツ、何を漬けてみたいかと漬け物の話で盛り上がります。漬かり過ぎた古漬けは、旨みをたっぷりすっているので「漬け物出汁」にするのがおすすめだそう。塩分が強い場合は、30分~1時間ほど塩抜きした後で、スープの出汁やチャーハンの具材に使ってもよいのだそうです。

おかべさんのぬかを味見。この味を目指します

おかべさんのぬかを味見。この味を目指します

漬け方やぬか床の混ぜ方の実演

漬け方やぬか床の混ぜ方の実演

子どもにも人気のぬか漬け

取り出した食材を切り、ランチタイムの準備。

取り出した食材を切り、ランチタイムの準備。

ランチタイムはぬか漬けの他に、おかべさんのお手製味噌で作ったお味噌汁も。身体がほっこり喜びます

ランチタイムはぬか漬けの他に、おかべさんのお手製味噌で作ったお味噌汁も。身体がほっこり喜びます

受講した皆さんからは、ぬか漬けの味や相談以外に、家族とのぬか漬けライフについてうれしい声が寄せられるそうです。
あるお母さんは、ぬか床を混ぜているとお子さんが「混ぜているでしょー!」と駆け寄ってきて、興味津々にその様子を見ているとか。そうしてお母さんが作っている姿を見ているので、食卓に上がったぬか漬けも美味しく食べてくれるのだとか。野菜嫌いのお子さんがぬか漬けなら食べてくれることもあるそうです。

「毎日ぬか床のお手入れをしていると、祖母が『大事にしているかい』と語りかけてくれてるような気がします。大事にというのは、ぬか床だけではなく家族の健康だと感じます」(おかべさん)

受け継がれる家庭の味は少なくなりましたが、ぬか漬けを通した家族の姿は今も昔も変わらないのではないでしょうか。講習から1ヶ月、我が家のぬか床も元気に育っています。

ぬか漬けマラソンブログ

無農薬無肥料で育てる、自然に寄り添う「農」を世田谷から

1000㎡の畑で春〜夏、夏〜秋、秋〜冬の3期作で野菜を育てています。のんびり、ゆったりした時間の流れが

1000㎡の畑で春〜夏、夏〜秋、秋〜冬の3期作で野菜を育てています。のんびり、ゆったりした時間の流れが

畑に雑草を植え、土に命を吹き込む

ある3月の日曜日の朝、仙川のそば、鎌田の住宅地の一角にある畑に、一人、また一人と集まってきます。畑といっても雑草や枯れ草で覆われている土地で、不思議な光景です。

ここを運営しているのが、2009年にスタートした「せたがや自然農実践倶楽部」。「自然農」を楽しむ人々による会員制の畑です。「自然農」とは、耕さない、水をやらない、草を抜かないという一般の農業とは正反対の農法で、夏の畑は成長した草と農作物が生い茂り、ジャングルのようになるのだとか。

「遊んでいるように思われがちですが、実はルールに沿ってやっているんですよ」と、代表の井山ゴンジさん。自然農の農作業は、種を撒く前の畑に雑草を植えるところから始まります。草の根のまわりに微生物が増え、それが空気中の窒素からアンモニアや硝酸塩などの窒素化合物を作り、土中に固定。これを栄養分にして、作物が育つしくみです。ここの土1gの中には1億匹もの微生物がいるのだとか。大切に育てられた土にふれると、ほんのり温かさを感じました。

直射日光や冷たい空気にさらされないように草で覆って微生物を守る。草のない裸の畑では、微生物は増えにくい

直射日光や冷たい空気にさらされないように草で覆って微生物を守る。草のない裸の畑では、微生物は増えにくい

明け方、葉に滴る朝露は土をほどよく濡らす。伸びた草が影になって土を日差しから守り乾燥を防ぐ

明け方、葉に滴る朝露は土をほどよく濡らす。伸びた草が影になって土を日差しから守り乾燥を防ぐ

野菜を“売り物”から“食べ物”に

「自然農で大切なのが草、それから種。市販の種は肥料の使用が前提だから、無肥料で育てるとほとんどがだめになりますが、土の栄養だけで育つ強いヤツが一握り生き残るんですよ。それを繰り返し育てて種を採ると、3年目には野生を取り戻した強い種になるんです」(井山さん)

畑には共用畝(うね)と個人用の畝があり、会員になると幅1m×長さ5mほどの個人用の畝と“野生化”した種を自由に使えます。毎週日曜日は共同作業日で、共用畝で代表的な作物をみんなで育て、やり方を覚えたら、それを個人の畝で実践します。

「去年はミニトマトを2本植えて、9月から食べきれないほど穫れました。形は悪いですけれどね。野菜は“売り物”である限り、形が揃う種子や農薬を使わなければなりませんが、自分で育てた野菜は“売り物”ではなくて“食べ物”だから形が悪くてもよいので、農薬は必要ないんです。食べる野菜を自分で育てる社会にしたいんですよ。農業は農家だけではなくみんなでやらなくちゃ」(井山さん)

これまでに市販の種70種類で野菜を育てて、10種類が“野生化“して残った

これまでに市販の種70種類で野菜を育てて、10種類が“野生化“して残った

個人の畝では平均で5種類ほどの作物が。最初の1〜2年間、苦戦した後に豊富な実りが実現する

個人の畝では平均で5種類ほどの作物が。最初の1〜2年間、苦戦した後に豊富な実りが実現する

自然農は「依存しない」農法

世田谷区鎌田の先祖代々の畑を継がれる井山さんですが、以前は製鉄会社のサラリーマンでした。農業をしていたお父様が体を壊したのを機に畑を継ぐことに。退職後3年間、全国の農家を渡り歩き、有機農法やEM菌栽培などさまざまな農法に出会いました。

「有機やEMも環境によい農法ですが、どちらも有機肥料や菌がないと成立しないでしょう。何かに依存して野菜を育てることに抵抗があったんです。それで最後に自然農に出会ったんです」(井山さん)

その後、参加していた「世田谷環境学習会」で農業の現状と自然農の可能性について発表したところ賛同者が現れ、2009年に仲間10人と荒れ果てていた休耕地の開墾をスタート。これがせたがや自然農実践倶楽部の始まりです。現在の会員数は35世帯約67名で、世田谷区を中心に、渋谷区や港区など都心から通う人も。会員同士は畑を通じた緩やかなコミュニティを作り、農に関する勉強会を開いたり、収穫祭やバーベキュー、花火見学など季節ごとのイベントを楽しんでいます。

せたがや自然農実践倶楽部は年会費を予算にして自主運営。勉強会やイベントを開催するほか、東屋などの設備も会員による手作り

せたがや自然農実践倶楽部は年会費を予算にして自主運営。勉強会やイベントを開催するほか、東屋などの設備も会員による手作り

この日は共同作業日で長ネギの収穫とジャガイモの植え付けを。おいしそうな長ネギがいっぱい!

この日は共同作業日で長ネギの収穫とジャガイモの植え付けを。おいしそうな長ネギがいっぱい!

自然に寄り添い、無理をしない!

「会員には原則があってね。一つは指示しない、されない。二つ目が努力しない。最後にやりたくないことはしないの三つで、みんなで楽しくやる、ということが大事なんです。農業は一人ではなかなか続きませんよ」(井山さん)

共同作業は自由参加。手入れをするのも、しないのも自由!失敗と成功を繰り返して1年ほど経つと、四季折々の作付け計画を立てて進められるようになるそう。昨年は会員の1人が田舎の農業を継ぐためにUターンするなど、世田谷で農業を学び地方に帰る、そんな現象まで起こっています

「でも世田谷区の農地は現在約100ha。毎年5〜10haずつ減り続けていて、あと10年でなくなってしまう計算です。日本の農業も高齢化が進んでいますから、それをどうにか食い止めたいんです。この畑もマンションにしたほうが経済的にはずっといいかもしれませんが、私の考える価値はそこにはないんです」(井山さん)

「世界の『農』を世田谷から変えたい」と代表の井山ゴンジさん。砂漠に草を植えて命を吹き込むのが目標

「世界の『農』を世田谷から変えたい」と代表の井山ゴンジさん。砂漠に草を植えて命を吹き込むのが目標

会員は20代から70代と幅広い世代。畑では地位も仕事も年齢も関係なし。ニックネームで呼び合う

会員は20代から70代と幅広い世代。畑では地位も仕事も年齢も関係なし。ニックネームで呼び合う

井山さんが思い描く夢は、農家がみんなの食べ物をつくるのではなく、すべての人が自分の食べるものは自分でつくる、という世の中になること。その実現に向けて、今後は会の農地を増やし、「農」をますます身近にしたいと語る井山さん。自然農の指導にインドへ渡るなど、グローバルな活動もスタートしています。

世田谷から始まる次の時代の農業。まずは、私もベランダのプランターに雑草を植えるところから始めたいと思います。

(撮影:庄司直人)

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せたがや自然農実践倶楽部
開園日時:毎週日曜日 9:00~17:00(夏期 7:00~16:00)
>> http://www.setano.com/

松陰神社通り商店街に、ダンボールの巨大基地、現る!

商店街の路地裏にある空き地が舞台。住むこともできそうな立派な基地が完成しました。まるで要塞のようです

商店街の路地裏にある空き地が舞台。住むこともできそうな立派な基地が完成しました。まるで要塞のようです

大人も子どもも夢中!ダンボールで本格建築

吹く風がまだ冷たい3月上旬の日曜日、松陰神社通り商店街の路地裏の空き地に約30組の親子が集結しました。空き地の隅には山積みになった大量のダンボール。これからこれで、巨大な秘密基地を作ろうというのです。

「お父さん、お母さんも本気でがんばって!用意スタート!」

イベントを主催する「子ども原っぱ大学」代表の塚越暁さんのかけ声と同時に子どもたちの歓声が響き渡り、空き地はダンボールでみるみる埋まっていきました。大人も子どもも真剣そのもの。心の向くままに組み上げるお母さん、柱を組んで本格的な家作りに挑戦する小学生。建物と建物の間は大人が通れないほどの小さくて細い秘密の通路でつながれ、その中を小さな子どもたちが走り回っています。

子どもの参加者は、歩き始めたばかりの赤ちゃんから小学校高学年までという幅広さ。小さな子どもたちはお父さんお母さんが組み立てた家をペンキで塗ったり、ダンボール用のカッター使って窓をくりぬいたり。小学生くらいからは、仲間と協力して自分たちの基地を作り上げていました。

ダンボールと絵の具で自由に、真剣に遊びます。壊しても汚れても、何があっても今日だけは怒られません

ダンボールと絵の具で自由に、真剣に遊びます。壊しても汚れても、何があっても今日だけは怒られません

頭の中の設計図通りの基地を作るには、取りかかりが肝心。バランスと重さを考えて慎重にスタート

頭の中の設計図通りの基地を作るには、取りかかりが肝心。バランスと重さを考えて慎重にスタート

材料はダンボールとガムテープだけ

私も6歳の息子と基地作りに挑戦!大きいのに軽く、丈夫なのに取り扱いやすいダンボール。簡単に大きな建物が出来るので、次は窓をつけよう、屋根を塗ろうと次々イメージが膨らみ、子どもそっちのけで夢中になってしまいました。息子のほうは建物の壁に絵を描いたり、小物を作ったりしたあとは、会場でできたお友だちとすっかり仲良くなって遊んでいます。

「僕らが注意する事は、刃物の取り扱いと道路の飛び出し。それから絵の具の無駄遣いですね(笑)。あとは大人も子どもも好き勝手やって!」(塚越さん)

子ども原っぱ大学は、身近な自然を使った親子の遊びイベントを企画・運営しています。この「ダンボール秘密基地づくり学科」は人気の定番イベントですが、今回が都内初開催だとか。ほかにも、たき火を囲みながら手作り望遠鏡で天体観察をする「星空マイスター学科」や、子どもたちが一眼レフのマスターを目指す「ホンキのカメラ学科」などユニークなイベントがいっぱい。親が子どもに「教える」のではなく、親子が一緒に夢中になって最高の時間を味わってもらいたい、そんな思いで活動しています。

取り扱いに注意することを約束して、子どもたちもダンボールカッターを手に取り組みます

取り扱いに注意することを約束して、子どもたちもダンボールカッターを手に取り組みます

こちらはカフェ風基地。ほかにも一軒家やドーム、お茶の間風など個性あふれる基地の数々が建ち並びました

こちらはカフェ風基地。ほかにも一軒家やドーム、お茶の間風など個性あふれる基地の数々が建ち並びました

軽トラックなど車4台で運んだダンボールと30ロールのガムテープは、ランチ前にはすっかりなくなり、空き地に巨大な街が現れました。

商店街をあげて参加者を歓迎!

ランチには、松陰神社通り商店街の自慢の惣菜を集めた「松陰神社前スペシャルお弁当」が登場。商店街の方々が見守るなか、基地やダンボールの山の上など、思い思いの場所に座り、街の愛情が詰まったお弁当をほおばりました。

この空き地での基地作りは、子ども原っぱ大学と松陰神社通り商店街組合の若手メンバーによるユニット「良鳩部(イーハトーブ)」の出会いにより実現しました。良鳩部のメンバーは、串揚げ店「どんからり」の湊文武さん、カフェ「STUDY」の国本快さん、「商アリク」の廣岡好和さん、不動産会社「松陰会館」の佐藤芳秋さんの4人です。

「商店街の活性化は子どもがキーと考え、親子イベントの開催を続けています。子どもの声は人を集める力を持っていますし、昔のようにお店と子どもが関わり合える日常を取り戻すことが商店街のにぎわいの源になるんです。イベントを契機に商店街の横のつながりも強めたいと考えています。」(良鳩部:佐藤芳秋さん)

松陰神社通り商店街の愛情いっぱいのお弁当。これに加えて温かいスープが配られました

松陰神社通り商店街の愛情いっぱいのお弁当。これに加えて温かいスープが配られました

左から国本さん、湊さん、佐藤さん、廣岡さん。良鳩部はこの街を理想郷に、という思いから名付けられました

左から国本さん、湊さん、佐藤さん、廣岡さん。良鳩部はこの街を理想郷に、という思いから名付けられました

街の景色を作った気持ちが街への愛着に

これまで良鳩部では、空き地でのバーベキューなどさまざまな親子向けの催しを企画してきましたが、今回のコラボでは、子ども原っぱ大学が持つ原っぱ遊びのノウハウによりダイナミックな催しにすることができ、層の厚い親子ネットワークを通じて参加者を募れたことで、地元以外の人にも松陰神社の魅力を紹介することができました。

ランチを終えると基地作りもラストスパート。通りかかった地元の親子連れが飛び入り参加したり、商店街の人たちが見物に来たりと、空き地のまわりもますます賑わってきます。

そして、午後2時半、基地作り終了! 銭湯の煙突を背景にした基地の姿はまさに要塞!自分たちで作った大きな作品に感慨もひとしおです。そして充実感と共に胸に残ったのは松陰神社の街への親しみ。街の景色に主体的に関わる経験をしたこと、親子で思いを共有したことが街への愛着を深めたようです。これはお祭りとは違う街の活性化へのアプローチと言えそう。子ども原っぱ大学と松陰神社通り商店街のコラボ企画はこれからも続くとのこと。この街のファンがますます増えそうな予感です。

子ども原っぱ大学の代表、塚越暁さん。「子どもと遊ぶって楽しいな」という父親としての気づきが活動の原点

子ども原っぱ大学の代表、塚越暁さん。「子どもと遊ぶって楽しいな」という父親としての気づきが活動の原点

空き地の入口。完成後30分で街は跡形もなく消え、ダンボールはリサイクル工場へ運ばれて行きました

空き地の入口。完成後30分で街は跡形もなく消え、ダンボールはリサイクル工場へ運ばれて行きました