世田谷の子どもが動物にふれる機会を
42回目を迎える「世田谷区動物フェスティバル」が始まったのは、1982年。コロナ禍で、2020年からの3年間は中止を余儀なくされましたが、この秋、再び開催の運びとなりました。
「子どもたちが動物と触れ合うことで、生き物に興味を持ち、命の大切さを知る情操教育の機会になればということで始まったイベントだと聞いています。その思いは、今も変わりません。お子さんに来てもらって、動物と触れ合ってもらう機会を提供できるのはとてもうれしいです。」と豊田さん。40年以上も続く歴史あるこのイベントは、毎年およそ16,000人が来場し、獣医師会が開催する動物イベントでは日本一の規模を誇るそうです。世田谷区と共催しているのは、公益社団法人東京都獣医師会世田谷支部。獣医師会に所属している世田谷区内の獣医が、日常の業務をこなしながら持ち回りで役員としてイベントを運営しています。
動物フェスティバルの最大の魅力は、動物園に行かないと見られないようなさまざまな動物と、世田谷区内の公園で出会えることです。フクロウやワシ、タカが檻なしで展示されている「猛禽類の展示」や災害時などに活躍している救助犬や老人施設などで癒しとなっている介助犬がいるブースや、ふれあいながらポニーやヤギなどと写真を撮れる「動物とふれあい撮影コーナー」などがありました。
一番人気はウサギなどの小動物と触れ合える「こどもふれあい動物教室」。あまりに人気のため抽選制となっており、イベント開始前から多くの親子連れが並んでいました。晴れて抽選に当選した子どもたちは、スタッフの説明を聞いてさわり方を習いながら、そっと優しくウサギをなでていました。
残念ながらそこで抽選に外れても、フェスティバルにはさまざまな物を間近に見られます。「ふれあい動物教室」のすぐ横にはハリネズミやパンダネズミがいて、子どもたちがのぞきこんでいました。ふだんあまり動物に接する機会のない小さな女の子が「動物ってくさいんだね」とお母さんに話していた姿が印象的。動いたり、においがしたりと、「かわいい」だけでない生き物をリアルに体感できるのがこのイベントのいいところです。
そのほかに人気だったのは、「動物病院体験」。獣医師会世田谷支部の中で「犬を連れて来てもいいよ」と申し出てくれた獣医さんが担ってくれたそうです。子どもたちは、白衣を着て獣医になった気分で、本物のレトリーバーに聴診器をあてる体験ができました。子どもにとってあこがれの職業である「獣医さん」を、本物の獣医さんに教わりながら体験できるのは貴重な機会です。
また、救助犬と介護犬のブースでは、災害時などに活躍する救助犬たちや、老人の介護施設などで癒してくれる介護犬をなでたり、それらの飼い主にその活動について聞けたりと、やはり貴重な体験ができました。
多くの団体・人の協力で開催される、命を扱うフェスティバル
このイベントは、主催している世田谷区と獣医師会のスタッフだけでなく、出展している団体や動物に関わる専門学校、都立園芸高校の学生も参加し、多くの方たちに支えられています。生き物が関わるイベントの開催前の準備は、さまざまな団体と連絡を取り合い、大変な作業。
「人も生き物もたくさん参加するイベントなので、とにかく無事に終わってくれることを考えています」と豊田さん。当日は、愛犬家と飼い犬も多く集まるので、犬同士のケンカなどの不測の事態が起こらず、安全にイベントを終えることに気を配ります。
命を扱い、大勢が関わる大きなイベントの開催に大変な思いをしながらも、獣医師会が動物フェスティバルをし続けるのは、区民に動物と触れ合い、楽しんでほしいから。
「最近はお子さんがいらっしゃらない方で犬や猫を飼っている方も多い。イベントのあり方としては、今後そのような方たちに対しても楽しめるよう、目的も考えていきたい」と話す豊田さん。実際、フェスティバルにはペットの健康などについて相談ができるブースや、愛犬のお手入れができるブースなども人気を集めていました。
最後に、豊田さんに世田谷で動物たちを診療して日頃感じていることを伺いました。
「コロナ禍で、犬や猫を飼う方がとても増えたと感じています。以前はなかったようなトラブルが増えてきたと感じています。習性を理解しないまま飼い始めて問題が起こったり、病気などの予防のためにしなくていけないことがあることを知らなかったり…。ペットを飼っていただくことは、とてもいいことだと思うのですが、飼う前にはよく調べ、しっかり考えてから飼い始めていただきたいと思います」
撮影 壬生真理子