2006年の設立当初から、障害のあるなしに関わらず、水泳をがんばるすべての子どもたちを受け入れ指導している
自閉症のわが子を受け入れてくれるスイミングスクールを探して
突然ですが、著者には自閉症を持つ小学生の子がいます。プールが大好きなのですが、言葉のやりとりが苦手で集団の指示が通りにくいため、「この子を快く受け入れてくれるスイミングスクールはないだろう」とほぼあきらめていました。そんな時に知ったのが、上北沢にある「Aim Top Swimming Club(エイム トップ スイミングクラブ)」です。
“Aim Top Swimming Club”は、ジュニアオリンピック出場者を多数輩出した水泳の指導者・濱田茂之さんが設立したスイミングスクールです。濱田さんは18年間勤めていたスイミングスクールに選手育成クラスが無くなってしまい、当時受け持っていた選手たちの育成を続けるために、2006年に独立。その後、一般の個人指導や団体クラスも作り、2020年にはスイミングを兼ねた学童保育の運営もはじめました。
上北沢の事務所兼スタジオ。スタジオでは学童保育や選手のトレーニングなどを行っている
一緒にできるなら一緒にやろうよ、という気持ち
今では障害があっても受け入れてくれるスイミングスクールが増えてきましたが、ひと昔前は、障害を理由に断られることが多くありました。
「私は、受け入れるにあたって、あまり深く考えたことはないんです。普通に、一緒にできるなら一緒にやろうよという気持ちです。指導でも何か特別なことをしているというわけではなくて、健常の子に水泳を教えるのとまったく同じように指導しています。障害があるからこれはできないだろうという先入観も持っていないので、最初はできなくてもそのうちできるだろうと思っています。もちろん時間がかかることは多いですけどね」(濱田茂之さん)
夏休み期間は水泳の強化合宿やサマーキャンプなどの楽しいイベントも実施している
独立してはじめて受けた一般の個人指導は、自閉症のあるお子さんだったそうです。必然的に、個人指導には集団では難しい方からの問い合わせが多かったのかもしれません。
「骨形成不全の大学生で小さい頃からずっと通っている方がいますが、彼は地域の障害者用の水泳教室をすべて断られてうちに来ました。骨形成不全は骨がもろく弱い病気で、急に腕を引っ張ったりすると骨が折れて責任が持てないと断られたそうです。しかし、通常の水泳指導中に急に腕をひっぱったりすることはまず考えられません。やるべきことをきちんとやっている分には何も起こらないと判断し、個人レッスンで慣れるまではお母さんにプールサイドでずっと見ていてもらうことを条件に受けました。他の子とぶつからないように鉄壁のガードをしながら指導して、彼は4種目泳げるようになりました」(濱田さん)
障害があっても、選手としてガチで育成
さらに、“Aim Top Swimming Club”の特徴は、障害のある方も選手として活躍しているところです。一般クラスでの受け入れはよく聞きますが、選手クラスでも障害のある方が一緒に泳いでいるスクールはあまりないそうです。
「うちではダウン症の子や知的障害の子が、日本選手権を狙うような健常の選手たちと一緒に泳いでいます。4歳からうちに通っているダウン症の男の子は、2022年ポルトガルで開催された世界ダウン症水泳選手権に出場しました。私は、せっかくうちに通ってくれるなら少しでも上を目指してほしいと思っています。ですから、うちは障害があってもガチで育成します(笑)」(濱田さん)
2022年、ポルトガルで開催された世界ダウン症選手権に出場した太陽君(当時18歳)。4歳からマンツーマンで指導してきた梶山真美先生と
スタッフを増やして安全面はしっかり配慮
障害がある人を受け入れるにあたって、「特別なことは何もしていない」という濱田さんですが、スタッフの数を増やすなど安全面の配慮をしています。
「今はすべての曜日のスクールに障害がある子がいますから、子どもを見る目は多くしています。逆に、障害のある子の方が多い曜日もあって、9人中8人が障害ある子という曜日もあるほどです。ですから当然スタッフをより多く配置しなければなりません」(濱田さん)
左からコーチの藤森理穂さん、濱田茂之さん、梶山真美さん、藤井かりんさん
ただ、スタッフを増やせば、当然それだけコストがかかります。福祉事業ではない中で、どのように運営されているのでしょうか?
「私の根本は『頑張る子ども達を応援したい!』という思い、ただそのひと言に集約されると思います。少しでも上を目指して努力している子がいるなら、障害のあるなしに関わらず全力で応援したい、そんな思いで日々活動しています。お金を儲けようと思ったらできませんよね(笑)」と、力強い言葉をいただきました。
スタッフはみんな小さい頃からの教え子たち
“Aim Top Swimming Club”の魅力は、スタッフの家族のようなあたたかさにもあります。その理由は、スタッフはほぼ全員、濱田さんの教え子たちで、スタッフ第一号はなんと4歳からの教え子だそうです。
藤井かりんさん(左)と濱田茂之さん(右)。濱田さんは児童発達支援士の資格を、藤井さんは区立中学の支援級で働いた経験もある
「私も9歳からここに入りました。他のスタッフもみんな小さい頃から一緒に泳いできた仲間たちなので本当に家族みたいですよ。このあったかさがうちの良さ!ということは自信をもって言えます。私は区立中学の支援級でお手伝いをしていた経験もあるのですが、物だけを当事者に合わせたり、人数だけを増やすのが手厚い支援だとは思っていなくて、いい意味で区別せずに、同じように遊んで同じようにできるようになることが大切なのでは、と思っています。一緒に泳いで、同じ選手時代を過ごして、同じ試合にでて、教え子になって…当たり前に混じっていたのは、私が選手として在籍している時から変わりません。愛情をかけた教え子たちが、その次の子たちにまた愛情をかけてくれる。そういうのが増えていければなって思います」(藤井かりんさん)
「よく『指導者に一番大事なのはなんですか?』と聞かれるんですけど、それは『自己犠牲の精神です』と答えています。自分のことはおいて子どものために何かしてあげる、その気持ちがあるかどうかで、うちのスタッフにはそれがあると自信を持って言えます」(濱田さん)
昨今、社会ではこんなにもインクルーシブを目指そうと言われているのに、本当の意味で交じり合って共に成長できる場はそう多くありません。こんな誰でも安心して参加、活動出来る居場所が、今後も末永く存続してほしいと思います。
文 中村杏子(合同会社まちとこ)
撮影 壬生マリコ(スタジオと濱田さん藤井さんお二人の写真)
NPO法人AimTopSwimmingClub
住 所 世田谷区上北沢4-25-1 1階
HP http://aimtop.main.jp/npo/
メール swim@aimtop.main.jp
※指導中は電話には出られないため、お問い合わせはメールにてお願いします。