池尻・閑静な住宅街の「工場」で手仕事体験

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閑静な住宅街の地下に広がるアクリル工場へ

暖かな日差しが緑道に木漏れ日を落とすある日の午後、池尻の工場に3人の若者が訪れました。障害のある彼らは、普段は世田谷区内の公共施設で清掃業務を担当しています。この日は清掃以外の職場と体験するということで、世田谷に工場を構える株式会社 友成工芸でアクリル加工を体験します。

アクリルとはお店に並ぶPOP、ディスプレー台、定規など、身の回りにある身近な製品に使用されている樹脂素材です。世田谷で60年以上続く友成工芸は、アクリルを加工した製品を世の中に送り出している企業。誰もが知っている有名企業のトロフィーやiPodスタンドなど、デザイン性の高いアクリル製品も数多く手掛けられています。

「工場」と聞くと、トラックが並ぶ巨大な建物を想像しがちですが、友成工芸は閑静な住宅街のなかにあり、傍目には工場と思えない佇まいをしています。しかし、友成さんの案内で地下の工場に進むと、そこには道具や機械、材料となるアクリル材の数々。思わずわくわくしてしまう地下空間に降り立った一行に向けて、職人さんによるアクリル製品づくりのレクチャーがはじまりました。

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世田谷に続く「手仕事」を体験

「アクリルは切る、削る、磨く、接着するの4つで色々なものができます。今日はみなさんに基本の箱をつくってもらいます」

そう言うと、職人さんは慣れた手つきで機械に向かい、加工される前の大きなアクリル板を箱の壁や底になるパーツに切り分けていきます。「ぶーん、ぶーん、ごごごごごごごごご…」地下工場に機械の音が響きわたるなか、一行は真剣な眼差しで職人さんの手さばきを見つめます。

手際よくパーツが切り分けられると、お次は「磨く」作業。研磨剤をつけた布を回転させアクリルを磨いていくと、ぴかぴかに光るアクリルがあらわれます。

「切る」「磨く」の機械を経由して、大きな板から小さく美しいアクリルパーツができたら「はい、ここからは皆さんにやってもらいます」と、作業を若者たちにバトンタッチ。職人さんをお手本に「接着する」作業に入ります。

アクリルの「接着」には注射器の形状をした道具がつかわれるとのこと。「やったことないから緊張するね」と緊張する3人。職人さんは接着剤の入った注射器を手にレクチャーを続けます。

「アクリルはすぐにくっつくところも他の樹脂とは違っていて、だから簡単に加工できるんです」。そう職人さんが言う通り、アクリルの接着面に注射器で接着材を注入していくと、アクリルはすぐにくっつきました。「難しいなぁ」「緊張するなぁ」とつぶやいていた3人も、少しずつハコの形ができてくると嬉しそうに「できた」と笑顔になりました。

「彫刻機という機械をつかうと型も抜けるんです。ハコが完成したら彫刻機で抜いた花びらなど、好きなパーツをくっつけてみてください」。と、職人さんから花びらや鳥などのパーツが渡されると、3人は思い思いの装飾を施し、オリジナルのアクリル製の箱が完成しました。

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身近な場所でつくられている手仕事を知ってほしい

アクリル職人歴50年以上になるという大知里省三さんに話を伺いました。

「この世界にはいった当時は、飛行機やヘリコプターに使われていた風防ガラスを生産する企業の加工部門で働いてました。以来、あちこちで職人をしてきましたが、アクリルは加工しやすいですし、自分で考えてモノをつくるものづくりの面白さを知ってもらえたら嬉しいです」(大知里さん)

3人に箱づくりを教えながら、終止楽しそうに手を動かし続けていた大知里さん。しかし、こうした「職人」や「手仕事」は減っていると言います。「手仕事が減っているのは、継ぐ人がいないということです。1人でやれていた時代はよかったんですが、一生懸命やっているだけに、誰かに教える余裕がなかったんでしょう」(大知里さん)

昔は世田谷はもちろん都内各地にたくさんの工場があり、いくつもの手仕事があったと言います。工場というと、音や匂いに苦情が集まりやすいため、近所の理解がない場合はなかなか続けにくい面もあるそうです。しかし、工場には一般家庭にない道具やトラックがあることから、3.11の東北大震災のときにも活躍したとのこと。「町のなかに工場があるのは、町のバランスにとって非常に大事なことだと思っています」と、友成工芸プロデューサーの友成冨美さんは言います。

意外なほど身近にあった世田谷の手仕事を体験して「緊張しました」「難しかった」「注射器がうまくできた」という3人に、「こうしたことをきっかけに知ったことが何かに繋がれば嬉しいです」と言う職人さん方。職場体験を通して、一行は世田谷から生み出されている身近な製品のことや、ものづくりの楽しさを学びました。

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株式会社 友成工芸
世田谷区池尻4-26-7
http://www.tomonari.co.jp/

【終了】世田谷パブリックシアター「地域の物語~みんなの結婚」

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世田谷線三軒茶屋駅となりにあるシアタートラム(小劇場)では、3月24日に舞台「地域の物語~みんなの結婚」を上演します。この上演に向けて、とてもユニークなワークショップが現在進行中です。

「地域の物語ワークショップ」は世田谷パブリックシアターが開館した1997年から継続されています。作品をつくることだけでなく、そのプロセスを通じて人々の思いや出来事、取材をした相手、自分、みんなで考えたこと、感じたことにじっくり向き合うことにもフォーカスをあてています。そして作品によって参加者と観客の人たちが出会い、色々な考えや思いを共有していくことも目指しています。

今年のキーワードは「みんなの結婚」。参加者は3コースに分かれ、約3カ月の時間をかけて作品づくりに取り組み、いずれのコースでも取材を行っています。

例えば、Aコース「私の結婚」では、主な取材対象を参加者自身にしています。Bコース「100の結婚 So many men, so many marriages」では、さまざまな結婚のかたちをあぶり出し、参加者が特に興味を持った結婚のかたちを生きる方たちを取材。Cコース「ふたり」では、結婚から少し離れ“ふたり”という観点からまちを観察しました。取材した内容を作品へとつくりあげる手法は進行役を担当する劇作家、振付家、演出家、ダンサーなど、それぞれのコースによって様々です。参加者は、五感だけではなく体も使い、全身で「結婚」について考えます。

長い時間をかけて生み出される作品は、ワークショップ参加者や協力してくださる街の人の日々の暮らし、意見、考え、思い出の取材からでき上がっています。その舞台は現実を映し、そして隠れた声をもあらわにすることもあります。その内容に思わず考えさせられたり、笑ったり、時には涙してしまうかもしれません。どんな舞台が目の前に現れるのか、とても興味深いです。

事前予約分のお申し込みは終了しておりますが、当日席のご用意がございます。14時30分より整理券を配布します。客席へは事前予約をされた方の入場後の空席にご案内します。

公演日
2013年3月24日(日)15時(開場14時30分) 
全席自由・要予約 入場無料

・公式ホームページ:http://setagaya-pt.jp/theater_info/2013/03/post_325.html
・問い合わせ先:世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515(10:00~19:00)

【終了】世田谷区民会館 名作ミュージカル「白雪姫」

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世田谷区役所の隣に立地する世田谷区民会館は、1200席のホールを持つ区内最大級の大型施設です。区民の文化・コミュニティの場として、さまざまなコンサートや、映画会、講演会、団体の各種行事などに広く利用されています。
その世田谷区民会館で、3月3日に「白雪姫」のミュージカルが開催されます。

白雪姫のエピソードを覚えているでしょうか?登場人物のお妃様は、自分の美しさや、地位、欲の為に戦争を起こし、白雪姫を殺そうとします。お妃から逃げた白雪姫は、森にある幸せの小人の国で7人の小人と出会います。外の世界を知らない白雪姫は、小人達に働くことや自然の素晴らしさ、人々が助け合って生きて行く事の素晴らしさを学び、成長していく過程を描いています。

ミュージカルを行う劇団東少は、毎年夏と冬の2回、日本橋の三越劇場にて公演を行っています。今回の「白雪姫」は、世田谷区民の幼児から小学生の親子に質の高いミュージカルを鑑賞してもらうことを目的に、(株)世田谷サービス公社と共催し開催に至りました。

ミュージカル「白雪姫」の魅力は、白雪姫のやさしさや、美しい心。平和を願い白雪姫を守る王子、白雪姫の美しさに嫉妬するお妃、妃の言いなりの大臣、森や自然を守る個性豊かな7人の小人達、白雪姫を助ける森の狩人等、多彩な登場人物と白雪姫の物語。表現豊かで、演技力、歌唱力、ダンス力のある俳優たちが、迫真の演技で観客を魅了します。また、終演後、キャストがロビーにてお見送りをし、握手をしてくれます。

劇団東少の方は、「この作品を通して、現代社会に希薄な『愛と思いやり』の大切さを伝え、子ども達に豊かな感性が育まれてほしい」と話します。ぜひ親子一緒にお越しください。

3月3日(日)14:00開演(開場13:30)
入場料 前売2,500円 当日2,800円
(全席指定/税込/大人・子ども同一料金/3才以上有料)
チケットの申し込みは劇団東少迄  
TEL予約 03-3377-7483・3376-8231(平日10:00~17:00 土日祝日休み)
FAX予約 03-3377-7592
ネット予約 http//www.tohshou.jp/
お名前・住所・連絡先(電話番号)・枚数をお知らせ下さい。
※世田谷区民会館でも、販売いたしております。
 
・公式ホームページ:http://www.tohshou.jp/
・問い合わせ先:03-3377-7483・03-3376-8231
・開催場所(世田谷区民会館・世田谷区世田谷4-21-27・03-5432-2837)
      東急世田谷線 松陰神社前駅下車徒歩5分 世田谷区役所隣り

【終了】世田谷パブリックシアター『マクベス』

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三軒茶屋駅前のランドマーク、キャロットタワーの中にある世田谷パブリックシアターは、現代演劇と舞踊を中心とした専門的な活動と、市民の自由な創作や体験を通して新しい舞台芸術の可能性を探っている劇場です。世田谷パブリックシアターとシアタートラムの2つの劇場のほか、稽古場や作業場、音響スタジオなどのスペースも併設され、芸術監督や制作・学芸・技術分野の専門スタッフを配置した運営スタイルは、全国の公共劇場から注目されています。

その世田谷パブリックシアターで、2月22日から3月4日まで芸術監督でもある狂言師・野村萬斎氏の構成・演出・主演による『マクベス』が上演されます。

『マクベス』は、1040年のスコットランドが舞台です。ノルウェー軍との戦いに勝利を収めた帰り道、三人の魔女と出会った将軍マクベスは、「やがて王となるお方」と予言されます。マクベスとマクベス夫人はその言葉に魅了され、時の王ダンカンを暗殺し自ら王位につきました。しかし、良心の呵責(かしゃく)に苛(さいな)まれ錯乱状態に陥ったマクベス。再び魔女たちと会い、新たな予言を聞くことになります。

3年前の初演ではたった五人で演じる『マクベス』を上演し、「古典悲劇に新たな世界観を吹き込んだ」と高い評価を得た作品です。繰り返し上演することで作品を洗練させていくことを目指し、この度の再演となりました。今回はソウル、ニューヨークと海外公演も決定し、「今の日本人として世界各国の人に訴えうる、でも日本人にしかなしえない『マクベス』」をご覧いただきたく新演出で挑みます。

野村萬斎氏は『マクベス』の魅力をこう語っています。
「物語で描かれる怨霊や魔女の存在を、近代的には“自己の欲望の投影”として見ることが多いですが、私は“人間が本来持つ、神や運命、森羅万象に対する畏れを象徴する”と解釈しています。魔女や魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)が登場するスケール感は能の世界に通ずるようであり、ひとりの人間の滑稽なまでの生き様を描く点は狂言的。俯瞰(ふかん)しながらミクロとマクロの両側から迫る、実は能・狂言の発想を存分に活かすことのできる作品に思えます。古典といわれるシェイクスピアを、いま現在、共感を得られるシェイクスピアに。しかし手法は能・狂言を用いるという(笑)。古くて新しい、新しくて古い。その真骨頂をご覧いただきたいと思います」

社会も個人も大きな変化を遂げた現代。野村萬斎氏はマクベスとその夫人、そして魔女をどのような存在と捉え、われわれの前に立ち上がらせるのでしょうか。狂言のDNA と名作戯曲、そして現在を生きる感性の融合をお見逃しなく。

公演期間:2013年2月22日(金)~3月4日(月)
チケットお申し込み方法:世田谷パブリックシアターチケットセンター
03-5432-1515(10:00~19:00 年末年始休)

世田谷パブリックシアターオンラインチケット(要事前登録。24時間受付)
P C:http://setagaya-pt.jp/ticket_buy/
携帯:http://setagaya-pt.jp/m/ 他

公演に関する詳細のホームページ
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2013/02/post_307.html

【終了】世田谷文学館「帰ってきた 寺山修司展」関連イベント

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南烏山にある「世田谷文学館」を知っていますか?世田谷を舞台に活躍した作家とその作品を紹介するコレクション展を行う近代総合文学館で、これまでに手塚治虫展や宮崎駿が選んだ50冊の直筆推薦文展などが開催されてきました。この文学館で、2〜3月「帰ってきた 寺山修司展」が行われます。

言わずと知れた詩人、劇作家の寺山修司。10代で俳句界に新風を巻き起こし、18歳で「短歌研究」新人賞を受賞後は、俳句や短歌の定型の枠を越えた詩作を展開し、歌謡曲の作詞や放送詩(ラジオ)を手がけました。30歳前後には世田谷区下馬に移り住み、当地において演劇実験室・天井桟敷を設立。演劇や映画へと活動を広げていきました。

今もなお、寺山ファンは新しい世代を中心に増え続けています。没後30年の年に開催する本展では、近年発見された新たな資料も交えながら、総数約500点にのぼる資料によって、彼の創作活動の原点ともいうべき、10代から20代にかけての文学活動をご紹介し、《ことばのひと―寺山修司》を再検証します。そして、この展示にあわせて、関連イベントが3つ開催されます。

まず1つ目は、3月2日開催「子ども文学さんぽ『やってみたい+たんけんしたいをかたちにしよう!“テラヤマラソン”でオリエンテーリングだ!』」。小・中学生を対象に、代々木公園を舞台に、公園を楽しく走りまわって“テラヤマラソン”をしながらクイズに挑戦します(申込締切2月9日)。

2つ目は、3月16日開催「はじめての短歌・はじめての百人一首」。歌人の天野慶さんによる、小・中学生にむけたイベントです。初心者でも安心。からだを大きく動かしながら短歌を楽しみます。(申込締切3月2日必着)。

そして最後は、3月17日に開催する寺山修司が監督・脚本を手がけた映画『さらば箱舟』の上映会です。

イベントへの参加方法は、3月17日の映画上映会は当日受付にて行いますが、他の2つについては、各締切日までに往復ハガキ(1イベントにつき1枚)にて、(1)イベント名(2)参加者全員の氏名・年齢・住所(3)返信面に代表者の氏名・住所を明記のうえ、世田谷文学館「寺山展関連イベント」係までお送りください。応募者多数の場合は抽選となります。結果は締切後、返信ハガキでお知らせします。イベントの詳細は、世田谷文学館のサイトをご覧ください。

ぜひ寺山修司の展覧会とともに、展覧会を通して開催されるイベントに、訪れてみてはいかがでしょうか。

※写真「『われに五月を』出版の頃の寺山修司 1957年」

歴史と伝統を誇る「世田谷ボロ市」

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世田谷伝統の市「世田谷ボロ市」

2012年12月15・16日と2013年1月15・16日の4日間に渡って「世田谷ボロ市」が開催されました。世田谷線の世田谷駅と上町駅を結ぶ、通称「ボロ市通り」で行われるこの市には、毎年700店もの露店が軒を連ね、数十万人もの人々が訪れるといいます。

取材で訪れた1月15日は、前日の大雪の影響で足下が悪かったにも関わらず、骨董類や古着、古本、植木類などが所狭しと並ぶ通りは、多くの老若男女であふれ、賑わっていました。2007年には東京都指定無形民族文化財にも指定され、長い歴史と伝統を誇る世田谷ボロ市の光景には、どこか昔懐かしい雰囲気が漂います。

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430年以上もの時を重ねてきた、ボロ市の歴史

ボロ市の歴史は、430年も昔にさかのぼります。天正6年(1578年)、小田原城主北条氏政がこの地に楽市を開いたのが始まりで、当初は毎月1の日と6の日に月6回開催され「六斎市」ともいわれていました。

この世田谷エリアは江戸と小田原を結ぶ重要な拠点として栄え、楽市がなくなった後も、農具市・古着市・正月用品市として毎年12月15日に行われる歳の市として長く保たれてきました。明治になり新暦が使われてからは正月15日にも開催されるようになり、やがて16日の両日開催となりました。

ボロ市の名の由来は、農家の作業着のつくろいや、わらじに編み込むと丈夫になるといわれていた「ボロ布」で、かつてはボロ布が盛んに売買されていたことから「ボロ市」の名が生まれました。大正から昭和にかけて出店数は8〜900店から最盛期には2,000店にものぼったそうです。

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ボロ市の名物「代官餅」

ボロ市通りに並ぶ露店を1店1店のぞいてみると、アンティーク雑貨や古本、古レコード。まな板やお皿などの日用品。豆やこんぶなどの食料品。サボテンや多肉植物などの植物類など、実に多種多様な商品がずらり。10数年も継続出店しているという80歳すぎのお祖母さんの手作り帽子や、滋賀県から訪れた男性が出店する粋な柄の帯や古着物も。いたるところで威勢のよいかけ声や、お客さんとの賑やかなやりとりが聞こえてきます。

 そんなボロ市の名物といえば、「代官餅」。その場で蒸してついたお餅にあんこ、きなこ、からみ(おろし)をまぶした3種類があり、この日にしか販売されない代官餅を求めて、毎年長蛇の列ができます。購入後、隣のスペースで立ちながら代官餅をほおばるお客さん達の姿や行列はボロ市ならではの1コマです。

 今回は5年に一度の「代官行列」も行われました。代官行列は、地域の人々が江戸当時を模した装束を身につけて代官屋敷から会場を練り歩くもの。会場一帯は、このパフォーマンスを一目見ようと集まるお客さんでも賑わっていました(雪の影響で翌日開催されました)。

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日本中から出店しに集まる。ボロ市には誇りがある。

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ボロ市を主催するせたがやボロ市保存会副会長の熊澤さん(80)に、ボロ市についてお話を伺いました。

「今年の出店数は約720店舗です。その中には、30年以上出店を続けているお店が80〜90店もあります。ボロ市に出店するには根性が必要ですね(笑)。今年はボロ市開催450年の節目の年でもあり、これを記念してボロ市保存会では、長年出店している35店舗を優良店として表彰もしました。出店者さんは全国から集まります。今年の出店者さんは、遠いところでは北は青森、南は鹿児島から来ています。」

遥か遠方からも訪れ出店するボロ市。その魅力とは、何なのでしょうか?

「出店者さんからすると、ボロ市に店を出すということは誇りであり、同時に、他のお店やお客さんと毎年再会できる場所でもあります。そして、お客さんからすると、ボロ市にくれば買える。という期待があるのだと思います。お客さんは、若い人も増えてくれていますね。」熊澤さんは、今も昔も、ボロ市の賑やかな様子は変わらないと言います。

 

長い時代を経ても伝統が守り続けられている世田谷ボロ市。ここでは世田谷に集まる人の営みと、ボロ市という場所から生まれる人と人との交流が今もなお受け継がれていました。

新規開店レストランの学生開発メニュー試食会

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「がやがや館」の産学連携プロジェクト

「学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校(以下、食糧学院)」は、池尻にある食のスペシャリストを養成する学校で、18歳から60代まで幅広い層の学生が集います。

この日、食糧学院に集まったのは、池尻2丁目において整備中の世田谷区立池尻複合施設(仮称)の3・4階に誕生する健康増進・交流施設『せたがや がやがや館』の関係者。2013年4月にオープンの同施設内のレストランで提供されるメニューについて食糧学院と共同開発が進められており、開発を担当する学生によるプレゼンテーションと試食会が開催されました。

今回、プレゼンされるのは全12レシピ。毎月入れ替わる季節メニューとして健康・長生きを目的にした「ベターエイジングメニュー」と「疲労回復メニュー」の2つのテーマに沿ったレシピが提案されます。この日は4月から9月までの季節メニューを2種ずつ12人の学生が開発。校内プレゼンを経て今回の試食会に至ったレシピを、学生たちがコンセプトや工夫した点などをプレゼンしていきます。

「次々にお料理が出て参りますので、プレゼンを聞きながらご試食ください」

調理実習室に入ると調理台の上には色とりどりの料理が並び、審査員たちは試食をしながら学生のプレゼンに耳を傾けます。美味しさはもちろん、栄養バランスや季節感、お得感やアイデアなど、「味」「見た目」「ボリューム」「原価」「独創性」の5つが評価の対象です。

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学生のアイデアで生まれた色とりどりの新メニュー

中濱周子さんが提案するのは「緑黄色野菜でいきいきアンチエイジング」という4月のベターエイジングメニュー。鮮やかな緑黄色野菜は抗酸化ビタミンを効率的に摂取できるとのこと。「主菜には鶏のひき肉と豆腐を合わせることで、カロリーをおさえつつ優しい味に仕上げました。噛む回数を増やすことで、満足感も増えまる」と中濱さんのプレゼンに、審査員からは「なるほど」の声があがります。

佐藤宗大さんが提案する4月の疲労回復メニューは「春の幸定食」。彩りも美しい桜鯛と春キャベツの「博多蒸し」には青じそとゆず胡椒が香り、副菜としてレンコンとごぼうのきんぴら、新タマネギの土佐まぶしが添えられます。「青じそがいいですね」「これで850円だったら安いですね!」との声も。味や見た目もさることながら、疲労回復に効果の高いビタミンB1を効率的に吸収できるそう。

大西泰典さんの提案する「鶏のトウチー炒め中華定食」は7月に提供される疲労回復メニュー。梅雨から夏にかけての季節の変わり目に、食欲が減退する季節にぴったりの食欲増進メニューです。ニンニクとショウガ、唐辛子がスタミナをつけてくれます。

8月の疲労回復メニューは、永瀬伸江さんの「たらの三食ごはん定食」。タラ、ほうれん草、錦糸卵の彩り良い主菜は、スポーツ後の疲労回復として、血液や筋肉をつくる主成分になるたんぱく質がとれるよう、魚が中心。お肌にもよいビタミンAもたっぷり含まれます。

長澤結さんは8月のベターエイジングメニューとして「野菜たっぷりアジアン定食」を提案。女性に人気のタイ料理「ガパオ」を主菜に、インドネシアの「ガドガド」、韓国でつかわれる牛肉と野菜のダシをつかったスープなど、まさに多国籍な料理が味わえます。

「以前、多国籍料理店で働いていたのですが、現地に近い味を食べにくいというお客さんもいらっしゃったので、日本人が苦手な味をつかわずにアジア料理を楽しめるように、クセのあるものを減らして、日本人が食べやすいように意識しました」(長澤さん)。好き嫌いもある多国籍料理でも、こうした配慮でより楽しめる方が増えそうです。

9月のベターエイジングメニューとして提案される田﨑ありささんの「野菜たっぷり蒸し料理」は、1日に必要な野菜が取れるという和風メニュー。「香りがスゴく良いので、”香り”の文字がタイトルに入るのもいいですね」というアイデアも審査員から逆提案されます。

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おいしいレシピ開発は「近隣地域との連携」がキーワード

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審査員のひとり、「がやがや館」を管理する世田谷サービス公社の山本課長に話を伺います。

「食糧学院との共同開発は、私が障害者雇用の部署にいる関係で何かしら連携できないかと話をしていたことがはじまりで、ちょうどこのレストランの話もあったので一緒に開発しようということになりました。食糧学院のほかにも、三宿通りにあるシニフィアン・シニフィエのパンを使ったメニューも別で考えているとことです。さまざまなメニューを近隣地域と連携してつくりあげていきたいと思っています」(山本課長)

幾度のプレゼンや試食会など丁寧なステップをつくられていく「がやがや館」のレストランでは、食糧学院や近隣飲食店とのタイアップメニューのほかにも、通常メニューも多数提供されます。
プレゼン後は学生たちも他のメンバーが開発したメニューを試食。一同、学生たちが腕をふるったレシピを美味しそうに味わいます。今回のレシピ開発を学生たちはどう捉えているのでしょうか。

「つくるのが好きなので調理も好きですが、考えるのも好きなのでメニュー開発にも興味があります。開発系の進路だとコンビニエンスストアのおにぎりやお弁当の開発などがあるんですが、開発したメニューを企業の方にプレゼンすることもあるので、今回のメニュー開発の経験は非常に良い経験になりました」(長澤さん)

試食会を経て、学生たちはさらなるブラッシュアップを図り実際のメニュー提供に備えていきます。池尻界隈が一体となってスタートする「がやがや館」は4月オープン。丁寧に開発が進められている学生たちのレシピをぜひお楽しみに。