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りんごをたっぷり使った、セタビカフェ・ランチボックス

2013年、秋メニュー、ランチボックスの完成形
川場村とのコラボレーション
粕谷ゼミとセタビカフェではこれまでに3回、ランチボックスのコラボレーション企画を行っており、今シーズンが4回目。今回は、初めて世田谷区が「縁組協定」を結んでいる群馬県川場村とのコラボレーションによるメニューづくりとなりました。
世田谷区と群馬県川場村のつながりは1981年に「縁組協定」を締結したことに始まり、今年で32周年を迎えます。現代教養学科、世田谷区、群馬県川場村(世田谷区と縁組協定締結)の交流組織「縁人-enjin-」の方々との交流を通じて、川場村名産のりんごをふんだんに使用した、これからの季節にぴったりのフレンチメニューが実現しました。
セタビカフェのフランス料理のシェフが作るということで、ランチボックスとはいえ商品企画はフランス料理を考えます。川場村のりんごとのコラボレーションメニューということで、メインからデザートまでりんごを使ったメニュー案を考えました。

店頭販売を行った際の記念の一枚

はじめてセタビカフェに伺ったときの記念写真
提案したものをシェフが本格料理に!

試食会の様子。こんなに美味しい料理になるなんて感激

試作した結果のレシピを提案。どきどきでした
いくつかあるメニューのなかで、私が担当したのはメインとなる豚肉のブレゼ(蒸し煮)。過去に、鶏肉料理、魚料理の順番で提供していたため、今回は豚肉料理にしようと決めました。私たちは普段料理の勉強をしているわけではないので、レシピを集めてきて作り方から開発します。
先生の家に集まって試作を作り、皆で食べてみてセタビカフェへ提案をします。それをセタビカフェのシェフが本格的な料理にしてくれるのです。シェフからたくさんアドバイスを頂き、9月に試食会を行いました。
りんごの酸味と甘みの効いたソースで煮込んだブレゼは、予想外に美味しくて驚きでした。実際にランチボックスになる際には、コスト面で豚肉がハムに変更となりましたが、そちらもすごく美味しいです。
私たちの提案を生かしたメニューが完成した喜びはひとしお。皆さんにもおすすめです。
この秋のランチボックスメニュー(~12/1)
昭和女子大学現代教養学科と群馬県川場村、セタビカフェがコラボレーションしたメニューがいよいよ完成!その内容は以下の通りです。
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○リビエラ(セモリナ粉を使った白ごまパン)…リエットをつけて召し上がっていただける素朴なセミハードパンになっています。
○ジャンボン・ド・パリのブレゼ(りんごソース)…ブイヨンでボイルした豚もも肉のハムをメインにマデラ酒香るフォン・ド・ボーでブレゼ(蒸し煮)しました。酸味が聞いた川場産りんごにカルバドス酒を効かせたソースが人気の一品です。
○彩り野菜とコンソメのジュレ…アンチョビが効いたドレッシングを絡めた色鮮やかな温野菜。ぷるんとしたコンソメのジュレとの組み合わせは抜群です。
○秋の味覚!さんまのリエット…フォアグラの脂で3時間煮込み、なすとしょうがのしぼり汁を使用して魚の生臭さを一切感じさせないシェフ渾身の一品。

試食会後の、完成形を撮影したときの模様。盛り上がりました

店頭販売の際のお客様へ手渡ししているところ
○川場産のりんごを使ったパウンドケーキ…川場産りんごとクルミ、ドライフルーツをふんだんに使用した秋を感じるケーキです。口当たりがとても軽くしっとりとした味わいです。
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これからの季節、美術館を見学した後にランチボックスを持って、砧公園で紅葉狩りを楽しでみてはいかがでしょうか。
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ランチボックス概要
価格:850円(ドリンクセットは1,000円)
ランチボックス販売期間:10月1日から12月1日まで
提供日:美術館開館日のみ、1日20個限定で販売
※使用するりんごは、あかぎ、紅玉、陽光、しんせかい、ふじなど時期によって異なります。
まちのお茶の間「岡さんのいえ」は、理由がなくてもいていい場所

岡さんのいえ TOMO
元祖「住み開き」の人、明治生まれの故岡ちとせさん
上北沢駅から歩いて5分ほどの閑静な住宅街に現れる「岡さんのいえ TOMO」。家自体はこじんまりとした昔ながらの日本家屋ですが、玄関の前はにぎやかです。「地域共生のいえ」のマーク、今月の予定、岡さんのいえで行われている教室の案内、そして駄菓子屋ののぼり…。気軽にのぞいてごらん、と呼びかけられているような気持ちで玄関に足を踏み入れられます。「最初はね、何をやっているか分からない、怪しい家だなんて言われたもんですよ」と見守り隊員の1人、中島俊一さんが笑います。
岡さんのいえのオーナーは小池良実さん。あれ?岡さんじゃないの?岡さんって誰?と不思議に思うところですが、“岡さん”とは小池さんの大叔母にあたる
岡ちとせさんのことなのです。岡さんが元々の住人で、2006年に99歳で亡くなるまで、多くの時間をこの家で暮らしたといいます。そして、外務省勤務の傍ら1950年代から、同居していた諫山イ子さんと一緒に、近所の子どもたちにピアノと英語を教え、いつも開かれたにぎやかな家だったそうです。

開いているデーカフェの日には、赤ちゃんや子ども連れのお母さんが気軽に訪れて、岡さんの家も賑やか

見守り隊員の小塚さん(右)と中島さん(左)
今でこそコミュニティスペースは珍しくありませんが、60年前にはめずらしい存在だったのではないでしょうか。おもてなしの心と共にかねてから住み開かれてきた家は、「地域の人や子どものために役立ててほしい」という岡さんの想いと共に遺されることに。そして意思を引き継いだ小池さんが岡さんの家を改修し、(財)世田谷トラストまちづくり、サポーターの力を借りながら、2007年からまちのお茶の間として役割をスタートさせました。
強力な助っ人、世田谷トラストまちづくり大学卒業生の「見守り隊員」
地域の人と子どもたちのために役立てるといっても、いざ、何をすればいいのか、どう継続していけばいいのかと知恵を絞るのは大変です。そこに現れたのが、世田谷トラストまちづくりが運営する「まちづくり大学」の地域共生のいえコーディネーター養成講座第一期の修了生たちでした。
このメンバーに、広報のイラストを一手に引き受ける小塚さん、伺った日に“駄菓子屋のおじさん”をやっていた地引功一さん、そして中島さんも含まれます。養成講座の中で、オープンしたての岡さんの家に関わる機会があり、その後も、「見守り隊員」として運営のコアな部分を担っています。
地域共生のいえのコンテンツとして、まず考られたのが、「開いているデー」。とにかく扉を開かなくてはと毎週水曜日をその日に決めたものの、最初は人の入りもイマイチ。そのうち「開いているデーカフェ」と名称を変え、お茶やお菓子を楽しめるようにしたら、ぐっと人が来やすくなったようでした。

取材した日は、だがし屋さんが開催

学校おわりの子ども達も集まります
ここに集うのは赤ちゃんや小さな子どもを連れたお母さんが圧倒的多数です。小学生や中学生のお茶の間にもなりたい、と考えて始めたことのひとつが駄菓子屋さんで、小学校帰りの子どもたちが、家を覗いてくれるようになったといいます。
集う人がしたいことをする場所
さまざまな年代が集まる岡さんの家ですが、「一番接点が少ないのが、中高生かもしれませんね」と小塚さん。しかし、一昨年の一時期、中学生が頻繁に出入りしていたといいます。「放課後まちの公園に、たむろしている中学生がいたんです。特になにをするでもなくいるんですが、体だけはもう大きいもんで、通報されちゃったりしてね。あんまりだから、岡さんのいえに招き入れて、カレーを一緒に作ったり、手仕事が好きだという子がいたから、みんなで刺繍をするちくちくカフェをやったりしました」(中島さん)
彼らは高校生になり、出入りはなくなりましたが、この誰でも迎え入れて、去るときは追わない、ゆるやかな結びつきが岡さんのいえのいいところ。まさに茶の間、なにをするでもなく集まれる場というのは、だれにとっても必要なものです。
もちろん、随時イベントも企画しています。「再現カフェ」では、岡さんが遺したレシピノートにあるハイカラなお菓子を現役のパティシエが腕を振るって再現しています。絵が得意な小塚さんは、図工教室を家だけでなく近隣の小学校でも。他にも夏休みには、大学生や大学院生がボランティアにやってきたり、世田谷美術館のワークショップがあったり…枚挙に暇がありません。関わる人が多様になっていけばいくほど、岡さんのいえの懐の深さも増していくようです。
さらに、近年は大学の研究対象となったり、海外から視察団が訪れたりと、岡さんのいえは住み開きの先進的な事例となっています。

赤ちゃんのためのコンサート

庭遊びのしゃぼん玉は、子ども達に大人気

庭では土いじりもできます
みんなの居場所が続いていくように
取材に行った日は「開いてるデーカフェ」の日で、お客さんはほとんどが子ども連れ。2人の子どもを連れて来たというお母さんに話をうかがうと、「お姉ちゃんが他の子とここに来て遊ぶので、普段とれない下の子との1対1の時間があるのが嬉しいですね。他のお母さんたちと、約束をしなくても集まれるのがいいですね」とおっしゃっていました。
「リタイア後、岡さんのいえに出会ってなかったら、何をしてただろうと怖くなります。結局、ここに来て、自分が遊ばせてもらっているんです」(小塚さん)
「ここに来る人、地元の人に楽しんでもらうために何をしていけばいいのか、抜けているところを振り返る作業を、今やっているんです。始めてからもう6年ですからね。存続していくためのことをやっていかないと」(中島さん)
2人を含め、岡さんのいえに関わる人々は、それぞれの役割と岡さんのいえの将来を想い描いています。

岡さんのいえは、いつも笑顔が絶えません

いつまでも、だれにでも開かれている、岡さんのいえ
“ずっと、当たり前にある家”。それが私たちが実家に求めるものではないでしょうか。例え家族であっても、いい関係を保ち、続けていくにはそれなりの努力がいるもの。「岡さんのいえ」のお茶の間に集う人々の願いもきっと、“いえ”が続いていくこと。かたちは柔軟に変わっても、誰でも「おかえり」と迎えてくれる空間は、岡さんの想いを継いでずっと上北沢にたたずんでいそうです。
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岡さんのいえ TOMO
[住 所]世田谷区上北沢3-5-7
[ホームページ]http://www.okasannoie.com/
原風景の自然が残る岡本静嘉堂緑地で、風情に浸る散策日

岡本静嘉堂緑地に囲まれる「静嘉堂文庫」
岩崎彌之助・小彌太が愛したコレクション
二子玉川駅から閑静な住宅地を抜けると、ふと小さな門に出くわします。門から中を覗くと、小道が緩やかな坂に沿って上へと続いている様子。川を流れる水の音色をBGMに進んでいくと、都会とは思えないほど木々が生い茂る景色が広がります。ここは、「岡本静嘉堂緑地」。由緒ある地として、雄々しい自然が息づいています。
坂を登っていくと現れる、二つの建物。比較的新しい建物が「静嘉堂文庫美術館」、そして右手に隣接する洋館が「静嘉堂文庫」です。「静嘉堂」は、三菱二代目社長・岩崎彌之助(1851〜1908)と四代目社長・小彌太(1879〜1945)の父子二代によって設立されました。二人の愛したコレクションの数々が、ここに収蔵されています。
美術館の左方向には、樹木に見守られるようにして瀟洒(しょうしゃ)な霊廟が建っています。小彌太が父の三回忌に合わせて建設した霊廟で、日本の西洋建築の祖といわれるジョサイア・コンドルが設計しました。澄んだ空気の中、心静かになれる場所です。

緑地内に流れる透き通った水の流れる音はヒーリング効果抜群

東京都指定歴史的建造物に指定されている霊廟
東洋固有の文化財を守りたいという想い

異国情緒漂う文庫。当時イギリスから取り寄せた家具や特注した窓枠など、内装もほぼ当時のまま

文庫内部は一般公開されていないが、文庫蔵書は予約制で閲覧可能
「静嘉堂」には、国宝7点、重要文化財83点を含む、およそ20万冊の古典籍(漢籍12万冊・和書8万冊)と6500点の東洋古美術品が収蔵されています。さすが、三菱を世界的な企業へと導いた岩崎家、コレクションの規模が壮大です。貴重な文化財が存在する場所にふさわしく、周囲には高潔な空気が流れています。
父の彌之助は、絵画・彫刻・書跡・茶道具など幅広い分野を収集していたのに対し、子の小彌太は中国陶磁を系統的に集めていました。
彌之助のコレクションの目的には、明治維新後の急速な西洋化などにより軽視されてしまった、東洋固有の文化財を守りたいという強い使命感があったといわれています。その父の想いを小彌太が引き継ぎ、図書や美術品の永存のため、大正13年(1924)に文庫用の洋館を建設し、さらに昭和5年(1930)には美術庫と鑑賞室を構築しました。現代の私たちが百年以上も昔の美しい美術品や貴重な書物に出会えるのは、東洋の至宝を守ろうとした二人の強い想いがあったおかげなのです。
旅人による幻のコレクション
この日、美術館では「幕末の北方探検家 松浦武四郎」展が開催されていました。松浦武四郎(1818〜1888)は、日本全国を旅し、多くの著書を刊行した“旅の巨人”。16歳から一人で日本全国を旅して回ったという、根っからの旅人です。
そんな武四郎は、特に北方の地に大きな関心を寄せ、6回も蝦夷地(現・北海道)を探査しました。アイヌの人々との親交がうかがえる著書も、当展で公開されています。また、武四郎は考古遺物の大コレクターでもありました。古墳時代の美しい翡翠(ひすい)の勾玉や、古代ローマの青銅製鏡など、歴史の深みを感じられる考古遺物が並んでいます。
今回の展示物は、静嘉堂が所蔵する武四郎旧蔵コレクションの中から主要なものが選ばれていますが、なんと初公開とのこと。スポットライトを浴びる日を待ちわびていた考古遺物の数々。まさに、幻のコレクションと呼ぶにふさわしい企画展です。

文庫に隣接する美術館。紅葉の時期には周囲の木々が色づく

松浦武四郎撰『北蝦夷余誌』万延元年(1860)刊
緑の木々に囲まれて過ごすひととき

旧長崎家住宅主屋(岡本公園民家園)には囲炉裏やかまどがあり燻煙が漂っている

旧小坂家住宅では外を眺めながらほっとひと息つきたい
「静嘉堂文庫美術館」を後にして、再び緑生い茂る自然の中を歩きます。この日は前日が雨だったためか、葉が瑞々しく香っている様子。自然と、深い呼吸になっている自分に気がつきます。こんなにも木々や草が生き生きと生存している場所があるなんて。都会にいることをすっかり忘れてしまいます。
静嘉堂文庫美術館を訪れたなら、足をのばして立ち寄りたい散策スポットがあります。静嘉堂のある丘を降りたところにある、江戸時代後期の住宅を遺した茅葺き屋根の「旧長崎家住宅主屋(岡本公園民家園)」、また「瀬田四丁目広場」内の、昭和12年に建てられた「旧小坂家住宅」。竹の庭園に癒されながら、太陽の日を浴びてひと休み……。なんとも至福のひとときです。
自然と古き文化が融合する、落ち着いた雰囲気の散策ルート。殺伐とした都会に疲れたとき、雑念を忘れたいとき、休日に散策してみてはいかがでしょう。訪れる際は、世田谷とはいえ、ヒールではなく動きやすい靴で行かれることをオススメいたします。
(撮影:小林友美)
※「幕末の北方探検家 松浦武四郎」展は12月8日(日)まで。
●文庫での閲覧をご希望の場合は事前予約が必要となります。予約方法は、HPでご確認ください。
育児中のお母さんにオススメ!下北沢エリアの授乳室リスト
【特集】人と街がつながる、 世田谷のコミュニティ
まちとこ出版社
心も体もほっこり。野菜の美味しいカフェ「ふくしまオルガン堂」
店名の由来は「オーガニック」から
通りから見ると、店舗名のとおりオルガンが目印のカフェ「ふくしまオルガン堂 下北沢」。店を開けると、まず美味しそうな福島の野菜が目に飛び込んできます。
「オルガンって、看板のようにオルガンが置いてあるけど、もともとの店名の由来は、オーガニック(organic)なんです。オルガン(organ)って文字がちゃんと入っているでしょ」と阿部さん。福島県の農家が運営するこのカフェは、2013年3月にオープンしました。
毎週2回、水曜日と土曜日に福島県の農家さんから採りたての野菜を送ってもらい、日替わりの定食メニューを組み立てます。「福島の旬はここで味わえるんです」と阿部さん。夏にはきゅうりやトマト、冬には大根や白菜。夜に貸し切りの予約があるときは、福島の郷土料理も出しているのだそうです。

「ふくしまオルガン堂」で店番をしている阿部直実さん
福島の農家との出会い
「3.11の震災後、何か自分にできることはないかと考えていました。その5月、福島の農家さんがトラックで東京に自分のつくった野菜を売りに来ていたんです。私が福島に行って何かしなければいけないのに、農家さんのほうが来ている。福島の野菜を販売する手伝いをしよう!とボランティア活動をはじめました」(阿部さん)
私たちが何気なく普段口にしているものは、農家さんが心を込めてつくっている。そのつくった野菜を、福島県産というだけで買わなかったりする消費者も多くいます。福島と東京、生産地と消費地。消費地である東京でも、もっと福島の現状をわかってもらいたいと阿部さんは言います。
「福島県農作物を首都圏で販売するボランティア活動を始めると、農家さんと話す機会が増えて、だんだんと福島の課題が、日本全体の課題として捉えていかなくてはいけないのではないかと思うようになってきたんです。そんな時、福島県の農家さんたちが下北沢に出店するということで、私が農家さんの代わりに店番をするようになりました。東京にいても福島に思いを寄せられるような場所にしていきたいと思っています」(阿部さん)
ここでは、福島県出身の人はもちろん、自分にも何かできることはないかと考えている人が度々訪れるのだとか。「何をしたらいいのか分からない」という人には、農作業のお手伝いや、福島でボランティア活動をしている人を紹介しているそう。お店の一角には、そうした活動情報がたくさん集められていて、このカフェから発信されている様子が分かります。

ランチで大人気の「ふくしま定食」。日替わりメニューで福島の野菜をふんだんにいただける

店内にあるラックには、ボランティア団体の会報誌やイベントチラシなどが並ぶ
震災後の農家の現状を知ってほしい
福島県産の農作物は、放射性物質検査を得て運ばれます。ここでは、検査された結果を見えるようきちんと提示することにこだわっています。
「提示された結果を見て判断してほしいというのはもちろんですが、それ以上に知ってほしいのは、農家さんが農作業のほかに、検査をすることを強いられているということなんです。この検査はとても大変なもので、検査する機械にもよりますが1㎏もの野菜をみじん切りにして、かつ検査結果がでるまで40分程度かかります。野菜の種類ごとに検査しているんです」(阿部さん)
特にお米の場合は、まず県の基準として全袋検査が必要で、それ以外に独自で検査をしてから出荷している農家さんが多いのだそう。日本の土壌は肥沃なので、農作物に放射性セシウムが移行しにくく、また数値の高いものは出荷停止となり流通していないのだとか。

福島から直送される野菜。色もつややかでどれも美味しそう!

ちょうどこの日の「ふくしま定食」にも出された洋梨。美味!
「私たちが扱っている野菜は、福島県有機農業ネットワークに加入する農家さんのもの。おいしくて安全な農作物を消費者に届けたいと農業にひたむきに取り組んでいる方ばかりです。だから福島県に限らず、そんな農家さんを心から尊敬しています。スーパーに行けば簡単になんでも手に入る都会に住んでいますが、震災後は口に入れる食べ物への考え方が大きく変わりました」(阿部さん)
「ふくしまオルガン堂」と福島のこれから
福島で農家さんがこれから先も農業を続けていけるように、消費する私たちが彼らと一緒になって、福島について、農業について考えていかなければいけないと阿部さんは言います。
「この『ふくしまオルガン堂』から情報発信をして、いろんな人に福島に足を運んでもらえたら嬉しいなと思っています。実際に行くと、ぜんぜん違うものが見えてくると思うんです。」(阿部さん)
福島の農家さんにも、月に1〜2回ほどこのお店に来てもらうのだとか。自分がつくった野菜をここで料理してくれるのだそう。そうしてこの場で農家さんとお客さんがつながっていくのが嬉しいと言います。
「東京にいながら、何となく福島を感じられる場所、福島への思いが積み重なる場所があってもいいですよね。今もなお、不安を抱えて生活をしている人たちがいることや福島に暮らす人たちの葛藤を、私自身ももっと知らないといけない、少しでも分かち合えたらいいなって思います」(阿部さん)
いろんな人の、いろんな福島の今があります。福島というコンセプトを抜きにしても、心も体もほっこりするような定食。みなさんもふらっと足を運んでみてはいかがですか?

店内は気軽にふらっと立ち寄れるあたたかい雰囲気にあふれている

メニュー表。価格もお手頃で毎日通いたくなるほど

「ふくしまオルガン堂」のオルガン。由来はorganicだったとは驚き
緑豊かな和の邸宅に誕生した、今までにないシェアオフィス

荘厳な門構え。世田谷の住宅街にひっそりと建つ邸宅のなかに、今までにないシェアオフィスが広がる
建物としての魅力を最大限活かすリノベーション
延べ床面積400平米以上、築50年のこの大邸宅は、経済学者野田一夫さんのご自宅として使われていました。住居を他に移した後も、愛着のある我が家を手放すことなく、外国人家族に貸すなどしていたという野田さんは、人づてに、古い物件を活かしつつ、リノベーションし、新たに再生させる事業を展開する「シェアカンパニー」代表取締役の武藤弥さんのことを耳にし、この上馬の自宅について相談。
当初はシェアハウスとして活用することも考えましたが、“家”となると、やはり閉ざされた空間になってしまうもの。それよりは、この庭、この邸宅の魅力を最大限活かすにはどうしたらいいかと考えた時、“シェアオフィス”にしようという企画が浮上しました。
2011年に秋に企画が動きだし、リノベーション。2012年8月にオープンしたこの「THE FORUM 世田谷」は、オフィス部分は2Fに6室と、キャレルと呼ばれる共有タイプのスペースが12区画あり、1Fには広々としたラウンジやミーティングルームなどのサロンスペースが設けられています。

部屋から望める中庭は、お月見や流しそうめんなど、入居者同士の交流の場にも

1階にあるミーティングスペースもゆったりとした雰囲気。入居者は1日2時間まで無料で使える
天井も高く、暖炉もあったり、もともとの良さや間取りも、残すべきところは残し、そのまま活かしながら、2階のオフィス部分はがらりと様変わり。荒れていた庭も手入れをして、生まれ変わったのだそう。
自然豊かな庭とともに

シェアカンパニーの前川佳美さんは、「The FORUM世田谷」の担当。一目見てこの場所を気に入ったという

ヨガやワークショップなどが開催されるサロンスペース。大きな窓からは中庭が見え、開放感たっぷり
どこからも中庭をのぞめる贅沢な空間は、おおよそオフィスとは思えないほど。
「庭には池があって昔は鯉もいたそうです。天然の井戸もあって、1日1時間だけ滝が出るようにしました。これからの季節はもみじが真っ赤になって、四季折々の緑を愛でることができるんです。庭を眺めながら過ごせるオフィスなんていいですよね」とシェアカンパニーで「THE FORUM 世田谷」を担当している前川さんは言います。
恵比寿の一軒家を事務所として借りていたというアースケイプは3月から入居。ランドスケープデザインの会社で、社員は8名。「自然を扱ったり、人が感動したりするアートワーク」を担当したりする彼らは、一目見て「この物件だ!」と思ったといいます。
「決め手は庭でしたね。自然が近くにあるというのがとても大きくて。朝から夜まで刻々と光の射し方が違っていくんです。そうして1日の流れを感じることができる。池のオタマジャクシが孵って、小さいカエルがぴょんぴょん飛んでいていたり。そんなところにも、小さな自然の変化を感じることができる。忙しい仕事の合間でも、この場所にいることで、しっかり生きられているという実感を得られるのは大きいですね」(アースケイプ・荒木さん)
おもしろい物件にはおもしろい人が集まる
今までにない、自然に囲まれた邸宅でのシェアオフィスは、運営会社であるシェアカンパニーでも初めての試みでした。住宅街という立地、駅からも徒歩15分で通勤にもやや不便、広大な庭やスペースは管理も大変で、不動産的な常識や収益性から考えると難しい物件なのは言うまでもありませんでした。
しかし、この物件と出会ったシェアカンパニーの武藤社長は、なによりも「おもしろい!」と思ったのだといいます。
「やはり建物自体の魅力がありました。私も初めてこの物件を見た時、感動しましたね。“箱”がおもしろければ、おもしろい人が集まってくる。人が集まれば何かが生まれるはずという思いがあったんですね」(シェアカンパニー・前川さん)
何かが生まれる可能性、人が集まることで生まれるコミュニティ……。
それは、かつて野田一夫さんが70年代に始めたという、若い起業家の人々が集まるためのサロン「フォーラム」の思いと重なります。若かりし頃の孫正義氏も出入りしていたというそのサロンでは、さまざまな業界の若手起業家が集まり、交流。それが現代によみがえり、「THE FORUM」として名を継承し、新たなコミュニティの場として再生しつつあるのです。

キャレルと呼ばれる共有スペースが12区画。デザイナーなどのクリエイターの方々が入居

セミナーやパーティも開催されるサロンは、入居者だけでなく外部からのゲストとの交流の場にも
暮らすように働ける場所

入居しているアースケイプの荒木宗一郎さん。「忙しくてもゆとりを持って仕事できるのはすばらしい」

デザイナーの野本綾子さんはほかの入居者と仕事をすることになったそう。それもシェアオフィスの醍醐味

オフィスというよりは、まるで誰かのお宅のような居心地のいい雰囲気。暮らすように働ける場所
「いろんな方がいて、緊張感があっていい」というアースケイプの荒木さん。
入居者は、ヨガスタジオを経営する会社や、クリエイターなど計24名。1Fの共用スペースでは、さまざまなイベントが開催され、入居者による企画イベントもあったりと、新しいカルチャーが生まれています。
「スタッフ同士のコミュニケーションもよくなったんですが、それはやっぱり、この環境のなせる技。入居者の誰かが食事を作ってくれた時、声をかけてくれて、一緒に食べてほっとしたり。もちろん、ほかの入居者の方と一緒に仕事をしたりも。社内のスタッフだけよりも、風通しもよくて、流れて、巡って、循環している感じがありますね」(アースケイプ・荒木さん)
「小さく借りて、大きく使う」と荒木さんが言う通り、それがシェアオフィスの一番のメリット。単なるオフィスを借りるだけじゃない、そこに付属するものの大きさは計り知れません。
場所が与えてくれる人との交流や、心のゆとりは、次の仕事へもつながっていくはず。それこそが、「THE FORUM 世田谷」の最大の魅力なのではないでしょうか。
「今後はイベントやワークショップなどを企画して、他の入居しているクリエイターの方とおもしろいことを仕掛けていきたい」という荒木さん。
現在、入居者募集中。ここで生まれる新たなコミュニティに、あなたも加わってみませんか?
(撮影:渡邉和宏)
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THE FORUM 世田谷
[住 所]世田谷区上馬5-15-15
[電 話]03-6455-5012(シェアカンパニー)
[ホームページ]
http://the-forum.jp/
[株式会社シェアカンパニー]
http://share-company.com
【特集】 芸術の秋、世田谷でアートを楽しもう
お寺の境内で新鮮な野菜とゆったり空間を「ママンカ市場」
下北沢×農業×子育て
2013年10月27日(日)、秋晴れの気持ちのよいこの日、下北沢駅から歩いて5分ほどの「眞龍寺(道了尊)」で開催されたママンカ市場に行ってきました。11時、市場が始まる時間に到着すると、すでにお客さんが続々と入っていました。
「下北沢×農業×子育て」がテーマのママンカ市場、お客さんには子連れが目立ちます。「はぐくみプロジェクト」という取組みを通じて、境内のあちこちに子育てを応援する仕組みが整えられています。象徴的なのは、境内の奥の「おやすみ処」。12畳の和室が、授乳やおむつ替えもできる、くつろぎスペースに。ほかにも、出店者の軒先を見てみると、必ず「マタニティマーク、母子手帳提示で○○」と書いてあり、お米プレゼント、10%割引、マッサージなど、お得なことが満載。次回は、プレママ、ママを誘って来なくちゃ、と友人の顔が次々に浮かびました。
このママンカ市場、実際に行ってみて“ママンカ=ママの”はもちろん「ファミリー市場」と名づけたいほど、規模も、にぎやかさも、サービスもほどよくて心地よい。
市場の行われている「眞龍寺」の境内。落ち着いた雰囲気でゆっくりお買い物ができるのが魅力
すべての店先にプレママ&ママが受けられる特典を明示
野菜を選んでいた女性に声をかけてみると、浜田山にお住まいのお客さんでした。
「いつも下北沢に髪を切りに来ていて、初めはこの近くのエスプレッソ屋さんに行こうとして偶然ママンカ市場の前を通りかかったんです。入ってみたら野菜がおいしくて。今では市が立つ日は午前中に来て、目当ての野菜を買うようにしているんです」この日もこれからエスプレッソのち、美容室だそう。
ポイントを貯めてもらえる市場の通貨“笑”
ポイントカードがたまるとママンカ通貨100笑券と交換。100笑=100円とお得!
この日の八木岡さんがセレクトした宅配野菜
出店者にも声をかけてみました。隣同士で出店していた人参農家の「潮田農園」、椎茸農家の「大畑農産」は、茨城県筑西市でもご近所さんだそう。「規模が大きすぎなくてちょうどいいし、ママンカ市場にはすごく気楽に楽しみに来られるんですよ」と口を揃えます。出店者同士も交流も盛んで、自然食品を販売する「土美庵」の米ぬかとお菓子販売の「The Suger Addict」のコラボ菓子が発売されるなど、新しい取組みも始まっているそうです。
ほかにも素敵だなと思った取組みは、ポイントカードと宅配サービス。ポイントは、買い物をすると金額に関わらず、1店舗につきスタンプひとつ(午前中、雨の日は2つ)を押してもらえ、貯まるとママンカ市場で使える通貨 “500笑”(500円分)をもらえるというもの。私もすでに半分ほどスタンプが埋まったので、次回くらいには500笑もらえそう。
宅配サービスは3ヵ月単位で申し込め、月々3500円でその月の出店農家の野菜を詰め合わせて配達してくれる。
品物を選ぶのは、初回から出店している八木岡岳曉さん。「私も農家だし、下手なものは入れないですから」と、出店者の間をてきぱきと走り回り、八木岡さんオススメの商品をパッケージしていました。目利きが選ぶ内容に、贅沢さを感じました。
下北沢に、子ども連れで楽しめる場所を
さて、次々に来るお客さんに満面の笑みで声をかけているのは、スタッフの小出麻子さん。ママンカ市場を運営するデザイン会社の社員であり、2009年に市場を立ち上げたときから、ママンカ市場の成長を見守ってきた方です。
「ママンカ市場のきっかけは、2009年5月に、私たちの会社が渋谷から下北沢に引っ越してきたこと。この地域と絡んでなにかやりたいという想いもありましたし、代表の須賀大介が親になるタイミングが重なって、“子育てしやすい町”について、意識が向かっていきました」(小出さん)
まずは、webマガジン「maman:Qa(ママンカ)」がスタート。コンテンツをつくりながら子育て世代の声に耳を傾けてみると、下北沢には、子ども連れで楽しめる場所が意外と少ないことに気づかされたといいます。
「子ども連れで楽しめる場所をつくろう、まずは場所探しだ!と商店街にかけこみました(笑)。そしたら両手を挙げて喜んでくださって。
元気いっぱいのママンカ市場スタッフ、小出麻子さん
「ママンカ文庫」は自由に絵本を貸し借りできる
ちょうど八百屋さん、魚屋さん、肉屋さんといった商店街になくてはならないお店がなくなってしまって2年くらい経っていたんですね。すぐに眞龍寺を紹介してくださいました」(小出さん)
日々暮らす場所だからできること
毎回訪れる出店者も、今回初めての方々も。野菜だけでなく加工品も充実
千葉から訪れた「キレド」の色鮮やかな野菜のサラダやピタはいつ見ても美味しそう
境内の天狗を模したかわいいクッキー発見!同時開催していた「ハロウィンキッズ」で配られていたもの
2009年10月31日、オフィスが下北沢に移転して5ヵ月後、第1回のママンカ市場が開かれました。「他の地域からもお声がけいただくこともありますが、下北沢だからできるんです。毎日ここで働いて、地域に根づいていくための努力も自然としているんですよね」と小出さん。地域の人、出店者、お客さん…回を重ねるごとに縁をつないで、ママンカ市場自体がどんどん育っているのだということを、小出さんのお話から伺い知ることができました。
この日、私が購入した商品は、米、天然もずく、鴨のスモーク入りの人参ラペ、しいたけのいしづきを使った佃煮、ごろっと大きな柿がのったカップケーキ、ママンカ市場で商品開発したいちごアイスの6品。どの商品にもしっかりとしたストーリーがあって、直接話を聞きながら買うのが楽しいのです。
特に、農産加工品好きの私としては、今まで食べたことのない、とびきりおいしいラペと佃煮に出会えたことが収穫でした。
胃袋をしっかり掴まれて、リピーターになること確実です。
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ママンカ市場
[住 所]世田谷区北沢2-36-15 眞龍寺 境内
[開催日]毎月第4日曜 11:00〜17:00
[ホームページ]http://www.mamanqa.com/
季節に合ったデコレーションを楽しめるスノードームづくり

季節に合ったデコレーションを楽しめるスノードームづくり
小さなお子さんでも参加できるフォトドーム
手作りスノードームのワークショップは、東急田園都市線「池尻大橋駅」から徒歩約13分にある、IID 世田谷ものづくり学校内のスノードーム美術館にて毎週末開催されています。美術館には、世界中のさまざまなスノードームや、ワークショップを体験した方の作品が所狭しと飾られ、見学者の方もちらほらと。
テーブルにはワークショップに使うアイテムがたくさん用意され、素材を前に生徒さん同士の会話も弾み、完成後の想像が膨らみます。
ワークショップで使用するのは、スノードームの真ん中に約13mmのすき間がある「フォトドーム」と呼ばれるもので、このすき間に、写真やイラスト、背景に使う模様紙、シール、フェルトなどをクリアシートで挟みながら入れていきます。難しい工程はなく、好きなものを組み合わて作るので、小さなお子さんでも楽しむことができます。

フォトドームの中に入れるフェルトやシールなど

スノードームの真ん中に約13mmのすき間がある「フォトドーム」
この日も、小学生以下の男の子がお母さんと参加していました。あれこれと大人が悩む中、いち早く素敵な作品を仕上げて見せてくれました。その創造力と決断力は、講師や周りの生徒さんも驚くほど。
フォトドームの魅力は、1つのドームで何度でも中身を変えられること。ワークショップの時だけでなく、自宅に持ち帰った後も、季節のイベントや旅行の写真など、素材を変えて楽しめるのが嬉しいところ。
スノードームの歴史や座学をまじえながら

台紙にフェルトや模様紙、シールを張り、クリアシートで挟みながら立体感を表現

出来上がりが近づくと、生徒さん同士の会話も弾みます
作業に慣れてきたところで、講師によるスノードーム座学も行われました。
かつて日本でもスノードームが製造され、盛んに輸出されていた時代があり、手先の器用な日本人が作ったドームは海外でも人気だったそうです。スノードーム美術館には、貝を台座にした日本製のドームも展示されています。
「スノードーム美術館は、世界で唯一のスノードームを常設展示している美術館で、スノードームを通してものづくりの楽しさを共有したい」と話して下さったのは、事務局の野村三彩さん。美術館には約3,000点のスノードームを収蔵しており、600~700点を入れ替えながら展示しています。
ワークショップの2時間はあっという間に過ぎ、参加者同士でお互いのスノードームを写真に収めました。「自宅でもまた作ってみます」と、みなさん手作りスノードームの楽しさを充分に味わった様子。
子どもから大人まで夢中になるオリジナルスノードームづくり、みなさんも体験してみてはいかがでしょうか。
「世界にひとつだけのオリジナルスノード
ームを作ろう」ワークショップのお知らせ
『世田谷くみん手帖』では、11/30(土)に「日本スノードーム協会」協力のもとスノードームづくりのイベントを開催します。クリスマスのモチーフや想い出の写真、お気に入りのグッズなど、様々な素材を組み合わせてスノードームを作成してみませんか?クリスマスのデコレーションに最適です。
詳細はこちら

オリジナルのスノードームを制作
「せたがやそだち」の野菜を買える直売所
ダウン症の人たちが描きだす、調和と明るさにあふれた世界
ダウン症の人がもつ芸術性との出会い
経堂の商店街から路地を入ったところにある、静かな雰囲気の一軒家。入り口には、「アトリエ・エレマン・プレザン」と描かれたキャンバスが置かれています。玄関を入ると、アトリエからにぎやかな笑い声が聞こえていましたが、やがて制作に集中する静かな時間に包まれました。
ここは、ダウン症の人たちのためのプライベートアトリエ。1980年代に子どもの絵画教室を開いていた画家の佐藤肇さん、敬子さん夫妻がひとりのダウン症の子どもと出会い、高い芸術性に衝撃をうけたことがきっかけとなり、1990年頃から三重と東京で始められました。現在は、佐藤夫妻の娘・よし子さんと夫の佐久間さんが中心となり運営しています。
「最初に注目したのは、ダウン症の人たちの芸術性に共通した特徴があったことです。彼らの絵は、色と色が画面のなかで調和して見事にバランスをとっている。やさしく肯定的な表現で、彩りも明るい。違う作家の作品を並べても、同じ作家のものと間違われるくらい、共通した感性があるんです」と佐久間さん。
肇さん、敬子さん夫妻は、これまで注目されてこなかったダウン症の人たちの優れた作品を「アール・イマキュレ(無垢の芸術)」と名づけ、芸術としての地位を確立する活動に力を注いできました。作品が高い評価を受ける一方で、活動を受け継いだ佐久間さんたちは「なぜ、こうした表現が生まれるのか?」と、彼らの内面性に興味をもつようになります。
アトリエの作品は、鮮やかで楽しくなるような色づかいばかり
代表の佐久間さん。アパレルとのコラボTシャツを着て
心の内面を表す、調和的な作風
「絵を見た一般の人から、よく『でたらめに描いているんでしょ?』と言われるんですよ。でも、自分で描いてみるとわかると思いますが、それでは作品にならない。ダウン症の人たちは、いちばんいいバランスでの終わり方を知っているんです。それは、絵を描く以前から、調和的・肯定的な世界が彼らの内面にあるからだと思う」(佐久間さん)
現在、東京のアトリエに通っているのは、5~35歳までの37人。土日に開かれる絵画クラスをメインに、平日の午前~夕方には、自由な制作活動をして過ごす「プレ・ダウンズタウン」と呼ばれる教室があります。取材にうかがったのは、平日の午後。アトリエには4人の生徒さんがいました。
大きな机を囲んで、ゆうすけ君はクレヨンで色を塗り重ね、だいすけ君は辞書を見ながら創作文字を描き、あきちゃんはヌード画と、それぞれが自分で決めた作業に夢中になっています。布でコラージュをしていたはるこちゃんが、「ありがとう」と描いたカードをプレゼントしてくれました。
「このアトリエが、色々な人に支えられていることを彼女なりに感じているんです。だから、みんなにカードを渡すんですよ」と佐久間さん。一般にダウン症の人たちは感受性が強く、思いやりが深いと言われますが、言語表現が得意でない人も多くいます。絵を描くことは大事なコミュニケーション手段の一つなのかもしれません。
それぞれの制作に集中するアトリエの生徒さんたち
はるこちゃんの描いた「ありがとう」「楽しくね」のカード
「彼らが遅いのか、僕らが早いのか?」
教室といっても、ここでは美術的な指導はしません。佐久間さんが「僕は先生じゃないよね?」と聞けば、あきちゃんも「先生じゃない」ときっぱり。「彼らは教えられなくても素晴らしい絵が描ける。だから、自由に表現できるように、彼らのリズムに任せて寄り添うことを大事にしているんです」と佐久間さん。
佐久間さんは、ダウン症の人がもつ内面世界を “彼らの文化”と呼びます。「一般社会と違うリズムだという理由で、彼らは動きが遅いとか言われてしまう。でも、ここでは見学に来た人も含めて、私たちが彼らのペースに合わせます。そうすると文化が逆転して、見え方が変わってくるんです。彼らが“遅い”のではなくて、僕らが“早い”のだと」
「“彼らの文化”はむしろ社会にとって必要なもの」と佐久間さんは続けます。「このアトリエに来るとほっとするという人は多い。いまの社会に居づらさを感じる人は少なくないですよね。もしかすると、彼らを“遅い”と言ってしまうような文化は、人にとって何かがずれているのかもしれない」
「僕は別に先生じゃないよね?」「うん。先生じゃないよ」
クレヨンの色を何度も塗り重ねた、ゆうすけ君の作品
「ダウンズタウン」に見る新しい未来
彼らの文化を絵だけでなく、生活全般に広げて社会とつなげることができたら、アートや福祉といった分野を超えて、新しい未来の可能性がみえるかもしれない――そんな思いから生まれたのが「ダウンズタウン計画」です。
「ダウンズタウン計画」とは、ダウン症の人たちを中心にした文化発信地をつくる構想。美術館を中心に、彼らがデザインしたアトリエや住居、カフェ、畑などをもち、自分たちのリズムで生活し、一般の人も立ち寄れる場所をイメージしています。この計画は、多摩美術大学の芸術人類学研究所との共同で立ち上げられ、少しずつですが三重県で準備が進められているそうです。
現在、アトリエでは制作環境を優先して、一般の見学は基本的に受けていません。でも、こうした場所ができれば、彼らの文化を身近に感じる機会も増えるかもしれません。そこからどんな未来が生まれていくのか、その実現が楽しみです。
また、2014年の夏には、東京都美術館で展覧会も開催予定。ぜひHPをこまめにチェックしてみてください。
ダウンズタウン計画を紹介した冊子とイメージスケッチ
2009年に開催した「アール・イマキュレ―希望の原理」展の様子
(撮影:庄司直人)
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アトリエ・エレマン・プレザン東京
住所:東京都世田谷区経堂
※住所の詳細は取材対象者の意向により掲載を控えています
TEL:03-6313-9906
http://www.element-present.com/
定休日:木・金曜日
※基本的に、一般の方の見学は受け付けていません。
学生の見学希望者はHPにある申し込みシートによる事前申し込みが必要です